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新しい世界の切り取り方

大事なことは「1992」に全部詰まっていた。MR.BIG JAPAN TOUR 2017 2017年9月20日(水)ニトリ文化ホールライブレポート

 

2017年9月20日。天気はあまり良くなく、公演前には雨が降り出した。それでもファンはニトリ文化ホールの前に列をなしている。前回のMR.BIG What If... Tourは日曜日だったが、今回は水曜日。自分たちも含めてどうも若い客が少ないように見える。そんなことを思いながら、開場時間となりホールへ吸い込まれていった。

ライブレポート

オープニングまで

開場が18:30、開演が19:00と開演まで時間がない。前回のMR.BIG What If... Tourの際もそうだったが、物販に長蛇の列ができる。全く前回の問題点が解消されず、グッズ購入に並ぶも、途中でパーカーとマグカップの売り切れが宣言される。そして、開演5分前になり、ライブへの準備のためグッズは購入せず会場へ。自分はA席で2階席の予定だったが、今回は2階席は使わないとのことで1階に振り替えになった。というのも、今回はとにかく客の集まりが悪い。1階席も満員にすらならず、ホール全体の6割程度しか埋まっていない状態。S席とA席の違いがそれほど大きくなかった。それなら、いっそのことZepp Sapporoの方が良かったとすら思う。さらに、開演は10分ほど押し、19:10頃のスタートとなった。

ライブのオープニングは重要だ。どんな音でどんな風に始まるのか、どの楽曲でライブをスタートするのか。前回のツアーではFrank Sinatraの「Come Fly With Me」で入場し、『What If…』のオープニング曲「Undertow」で幕を開けた。ニューアルバムを発売してのツアーなのだから、アルバムのオープニング曲を最初に持ってくるのはありがちなこと。そんなわけで、「Open Your Eyes」から始まるのかと開場前に友達と並んでいる時に話をしたが、見事に裏切られた。James Brown & The Famous Flamesの「I Can't Stand Myself」でライブがスタートした。この辺は全開の流れを汲めば当然なことで、クラシカルだがノリの良い楽曲を持ってくるのは想定していた。

 

オープニング~Just Take My Heart 

Matt Starrのカウントで始まったのは「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」。チクショウ、裏切られたけど最高のオープニングじゃないか!昔ながらのファンには持って来いの曲から始めるだなんて、Mr.Bigにしてやられた。当然、makitaのドリルを使った演奏もキメて、ツカミはOK。しかも、ステージの後ろには巨大スクリーンがあり、そこにはPaul画伯が書いたMr.Bigのメンバーが映っているではないか!あの独特の人間は本当に味があるし、Mr.Bigのファンなら嫌いになれないはずだ。

続いて「American Beauty」で若干観衆が冷めた。前々作『What If...』の曲だからか、「Daddy~」に比べて知名度が劣るのもあるかもしれない。その流れで3曲目「Undertow」。これは前々作のオープニング曲だったのもあって、そこそこ会場の雰囲気を持ち直すことに成功。

4曲目「Alive And Kickin'」に入る前にPat Torpey登場!もしかしたら、オープニングの歓声と同等か超えるくらいの大歓声。やっぱり、ファンはみんな分かっているのだ。パーキンソン病になってしまったとはいえ、Mr.BigのドラマーはPat Torpeyなのだ。Patはドラムセットの隣のパーカッションセットでタンバリンやカウベル、シンバルとコーラスを見せてくれる。Mr.Bigの大きな魅力の一つは全員コーラスで、Patのコーラスはとても心強い。次の「Temperamental」のイントロはPatがカウベルとハイハットでパターンを紡ぐ。このスタートの喜びたるや…!!!ただ、この曲はEricが若干やらかす。ラストの部分でコール&レスポンスをするのが恒例となっているのだが、Ericのコールが難しいことがあり、レスポンスの悪さが目立つ。これは、Ericが悪かったと思う。

「Temperamental」が終わり、Patがドラムセットに座る!ついにドラムを叩く姿が拝める!そして、Paulのギターから始まったのは「Just Take My Heart」。この曲が前半のハイライトで、Patがドラムを叩く姿と絶妙なバラードが心を打つ。本当に鳥肌が立つ最高の瞬間だった。

Take Cover~Billy Sheehan Bass Solo

中盤が始まり、「Take Cover」。さっきまでPatのドラムだったのに、すぐMattがドラムに座ってあの全身パラディドルフレーズを叩き出す。でも、そのフレーズはPatが叩いたそれとは明らかに違っていて、コピーはできているものもオリジナルのクセと年季が入ったニュアンスまでは再現できていない。「Take Cover」と来たら次は「Green-Tinted Sixties Mind」だよなと思ったが、これが的中。 というより、今まで自分が聴いてきたライブ盤(『LIVE AT BUDOKAN』、『BACK TO BUDOKAN』辺りはよく聴いている)がその流れだったからそう思っただけなのだが。それにしても「Green-~」のイントロのギターの美しさが半端じゃない。そして、サビのコーラスの気持ちよさ。この曲だけで記事書いちゃってるし。もちろん、ギターソロ後はコーラスのみになるパターンで大満足。

ライブ版の魅力を教えてくれたのはMR.BIG~名曲「Green-Tinted Sixties Mind」で見るライブとその変遷~

ここにきて、やっと新作 『Defying Gravity』から「Everybody Needs A Little Trouble」。まあまあ、今までよりもブルージーなシャッフルだったくらいで、正直そんなに印象にない曲をやられたので、ライブの中でも印象は薄い。それよりも、次の「Price You Gotta Pay」のブリッジでBillyがブルースハープを吹き、後ろからEricがベースを弾くいつものヤツをやってくれたので良しとすることにした。その流れでPaulのギターソロ。まあまあいつも通りの速弾きを聴かせてくれるのだけど、ルーパーを使ってフレーズを繰り返して見せたり、足踏みでリズムをとってブルージーなソロをキメて見せたりと、今までとは違うパターンのソロだったことは確かだ。

ギターソロが明けたのは「Take A Walk」のイントロをPaulが弾き始めた時。この曲は1stアルバムに収録されているにもかかわらず、たまにライブで演奏される曲。何より、イントロのギターがとにかくカッコいい。少し落ち着いて「Wild World」。この辺の安定感はさすがで、特別新しいことをやってくれた感じはしなかった。

落ち着いた雰囲気の中新作から「Forever & Back」。この曲がとても良かった!正直、そんなに新作を聴きこんでいたわけではなかったため、この曲がこんないい曲だとは知らなかった。サビのコーラスがMr.Bigらしくて最高なのだ。CDのサウンドがちょっと籠っているからあまり良く聴こえなかったのかも…

そんな感動をよそに曲は進み、「Rock & Roll Over」で再度ヒートアップし、「Around The World」まで一気に流れていった。 

Billy Sheehan Bass Solo~ラスト

Billyのベースソロはライブの後半戦に入った証であり、ラストへの階段を駆け上がり始めたということだ。いつも通りの速弾きをかましてくれるのだが、前半は歪み少な目で、後半はアンプのチャンネルを変えて2段階にサウンドを変化させる。やっぱスゲーよな~と思っていると、4弦の12フレットと14フレットのトリルが始まる。これはいつものサインで、 「Addicted To That Rush」がスタート。今回の「Addicted To That Rush」はほとんどオリジナル状態で、3回目のサビの後に静かになる個所でストップがあったくらい。ソロの掛け合いもほぼオリジナル状態。あんなに遊んでいたのに、今回は全然遊んでくれなかった。

せっかく盛り上がったのに小休止の後に「To Be With You」。名曲だし後半に持ってきたいのは分かるが、このタイミングじゃないだろ!と思わざるを得なかった。もっと中盤に持って来れば「Addicted To That Rush」の勢いを殺さなかったのに。当然ここにはPatも参加して、コーラスを披露。続いて「Colorado Bulldog」。やっぱり繋がりが悪いが、最後にアクセル全開で爆進する姿が最高。ハイスピードなテンポは慣れているけれど、この曲は何度聴いてもカッコイイ。

続く「1992 」が今回のライブのハイライト。「Colorado Bulldog」に負けず劣らずのユニゾンがあって、ちょっと厳しい雰囲気のある楽曲。後ろのスクリーンに昔からのファンとの交流が映し出され、100回目のライブの「絆」と書かれた横断幕を見て、Mr.Bigとファンとの関係性に感動。”No.1だったあの頃”と最後に残すこの曲の意味をライブで知ることができたのは最大の価値だった。

ラストはお馴染みの「Baba O'Riley」。そこそこ長い曲で途中でPaulが歌ったり、テンぽチェンジがあったりと楽しい曲でライブ終了。ライブ終了後は会場が明るくなっても、明らかにアンコールを欲しがっている観客は多かったが、アンコールが無いと分かると皆帰り支度を始めたので、あきらめは早かったんじゃないだろうか。そんな中流れていたのはProcol Harum「Shade Of Pale」で、何とも哀愁を誘う曲だった。 

時間にして2時間弱、 20曲のライブは新旧織り交ぜてと言いたいところだが、新曲の割合は低く、いつもの曲の間に新曲がちょっとあったかな?くらいの割合だった。ニューアルバムをあまりちゃんと聴いていなかった自分にとっては良かったが、ニューアルバムをちゃんと聴き込んできた人にはちょっと疑問が残るライブだったかもしれない。

機材周り

機材は毎回気になって見るようにしているので、観測範囲内で書いてみる。

まず、PaulのギターはIbanezで、逆Icemanの白と赤を使い分けていた。ソロコーナーでスタンドに備え付けられた状態の白いシグネチャーモデルが登場しており、ルーパーにつながっていたようで無限ディレイの様な演出に使われた。アンプはMarshallで、以前のLaneyから鞍替えして長くたっているので、安定感はばっちり。しかし、2段キャビネットのマーシャルが1台だけだとステージ上ではちょっと寂しい感じがした。

BillyはいつものYAMAHA ATTITUDEで薄いグリーンを全曲通して使っているように見受けられた。後ろには黒いATTITUDEが置いてあったが、使用されることはなかった。アンプはHARTKE。自分は以前のAmpegのイメージが強いのだが、ここ何年もHARTKEで、ヘッドとキャビネットのセパレートになっており、5つのキャビネットで、その真ん中にヘッド類を載せている構成だった。

Mattのドラムはバスドラのヘッドにペイントがされていたため、定かではないがLudwigを使用しているはず。大きめのバスドラに1タム2フロアで、足元はツインペダルだったようだ。そして、シンバルをあまり大きく叩かないのだが、それもそのはず、スゴイ音量が鳴るPaisteの2002シリーズ使用しているからだ。スネアのチューニングは低めで、ドスドス・ボスボス鳴っているのが印象的だった。

Ericも「To Be With You」、「Wild World」でいつものYAMAHAのエレアコを持っていた。

前回のMR.BIG What If... Tourではベースの音量が大きく、Paulのギターが聴きにくい状態だった。今回はバランス的にはとてもよく、メンバー一人ひとりの音がよく聴こえたのはライブを楽しむためには、大事なことだと再確認させられた。

セットリスト

Opening : I Can't Stand Myself (When You Touch Me) / James Brown & The Famous Flames

1. Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)
2. American Beauty
3. Undertow
4. Alive And Kickin'
5. Temperamental
6. Just Take My Heart
7. Take Cover
8. Green-Tinted Sixties Mind
9. Everybody Needs A Little Trouble
10. Price You Gotta Pay
11. Paul Gilbert Guitar Solo
12. Take A Walk
13. Wild World
14. Forever & Back
15. Rock & Roll Over
16. Around The World
17. Billy Sheehan Bass Solo
18. Addicted To That Rush
19. To Be With You
20. Colorado Bulldog
21. 1992
22. Baba O'Riley

End : A Whiter Shade Of Pale / Procol Harum

 

 雑感

ライブを見て感じ、考えたことがあるのでその辺をまとめたい。特に今回のライブは横砂相撲を取られた感じがしたのと、予定調和の気持ちよさのバランスの取り方だ。

誰に向けたライブなのか

正直新作 『Defying Gravity』をあまり聴き込まない状態でライブに参加したので、開演前に友達と新作をほとんど聴いていないことを後悔したが、実際ライブが始まってしまうと20曲中3曲しか新作から演奏されていない。新作とライブで盛り上がる曲のバランスの取り方でバンドの方針が分かる。今回で言うと、新作を聴いてきた人にライブでの姿を見せるというよりは、新作はほどほどにいつも通りのライブを楽しんでもらおうという姿勢だったように思う。

多分、『Defying Gravity』が売れている感じもしないし、今回の客層を見ても自分たちも含むアラサー以上が多かった。というより、10代はほぼ見られず中心は40~50代。少なくとも札幌はそうだった。そこから考えてもファンは昔からMr.Bigを知っている人たちになる。となると、新作よりも以前か人気のある楽曲をライブで見せてくれた方が観客としては喜ばしいことであるはず。そう考えると、今回のセットリストも納得がいくし、今回のアルバムの中でもライブ向きの楽曲だけを演奏してくれたとも考えられる。

妥当といえば、妥当な選曲をしてくれたし、ライブとして見る楽曲のバランスを考えるとなかなか良かったんじゃないかと思っている。 

古さと古典芸能

今回のライブは古さを感じざるを得なかった。それがいいことなのか、悪いことなのかが問題だ。

自分が感じた古さはギターソロとベースソロ。今時、ギターソロやベースソロをライブで披露するアーティストは少ない気がする。いかにもロックバンドや昔のハードロックバンドらしいことでもあるのだが、今のバンドなら1曲でも多く楽曲を聴かせてくれることを優先させそうなものだが、Mr.Bigは違う。しかし、Paul Gilbertのギターソロはいつも楽しみだし、Billy Sheehanのベースソロはいつ見てもスゴイ。きっとPatがドラムを叩ける状態ならきっとドラムソロも披露してくれたし、何ならPatのドラムソロならメチャクチャ見たい。あれは、2002年のMR.BIG Farewell Tourだったが、超絶ドラムフレーズを叩きながら、Beatlesの「Yesterday」を披露してくれたのは今でも衝撃だ。

Mr.Bigだからこそギリギリ場が持つが、他のバンドが気軽に真似をしてはいけない古典芸能だということを理解しなくてはならない。

メンバーが違うこと・年を重ねること

今回感じた今までとの大きな違いはドラム。Patがパーキンソン病になって、以前の様にドラムが叩けないため、サポートメンバーとしてMatt Starrがドラムを叩いている。メンバーが実質変わった状態なので、多少なりとも違いは感じるものだった。

以前書いたロックバンドのメンバーが変わると何が変わるのかという記事にも書いたが、ドラムが変わるのはグルーヴが大きく変わってくる。似たタイプのドラマーであっても、やっぱり少し違うことが多く、違和感を生みやすい。Pat TorpeyとMatt Starrを比べると、Pat Torpeyの方が小技が効き、Matt Starrの方がパワフルで若干リズムが重い。特にMr.BigではPatが微妙に小技を効かせているのだが、そこをMattがスルーすることによって何となく聞こえていた小さいフレーズがないことによる違和感が大きいのだ。実際、Mattは完コピしているわけではなく、若干フィルインを変えたりカヴァー率としては70~80%くらいで楽曲に対してアプローチをしている。このアプローチ自体には問題がないし、完コピを求めたりはしていない。ただ違うということ。

あと、メンバーが年を取ったのは若干隠し切れなくなっている。それでも、以前とそう変わらないパフォーマンスを見せてくれるプロ魂は本当に尊敬に値する。その一方で、前回のツアーの際もそうだったが、基本のチューニングが半音下げになっている。Mr.Bigの過去の楽曲はレギュラーチューニングが基本になっているので、へヴィに聴こえる一方でハリに欠ける。チューニングを下げるのはMr.Bigのみではなく、Bon Jovi等のアーティストも行っていることなので、珍しいわけではない。ただ、声が出なくなっているから音を下げるのも理由になるし、長いツアーの中で消耗しないように体力を温存していることも考えられてしまう。この辺りが残念なところだ。何より、今回はアンコールがなかった。確かに会場に半分くらいしか観客がいなかったり、日本ツアーの初日だったのもあるが、1曲くらいやって欲しかったというのが正直なところ。 

今回も思ったライブの良さ

久々にライブを見たが、ライブは本当に良い。今まで聴いたことがある楽曲も新鮮に聴こえることがあり、今まで何とも思っていない曲が大好きな曲に変わることがある。実際何度も聴いた名曲「Just Take My Heart」のドラムが今のPat Torpeyが担当するだけで、良い意味でこんな違うモノなのかと感心した。演出によって「1992」が最高の楽曲だと知ったし、「Forever & Back」という名曲をちゃんと認識できたことが今回のライブの最大の収穫だ。

単純に自分が好きなアーティストを目の前で見られることも嬉しい。下手すると、生音まで聴こえてくるくらい近くで音楽が聴けるなんてこんな幸せな時間はなかなかない。

最後に

年に数回ライブに行くかどうかなので、余計に色々書きたくなった。これがMr.Bigじゃなかったらこんなに書かなかっただろうなと思いながら、ここまで書いてきた。

いい部分の方が多かったが、良くない部分もあった。総合的には良いライブだったということは間違いない。

また来日する機会があれば、札幌のステージで再会できることを楽しみにしている。

 

こちらからは以上です。

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