Hi-STANDARD(以降、ハイスタ)が事前告知なしでシングルを発売したのがニュースになった。
再結成に向けて動き出している雰囲気はあり、メンバーのTwitterや共演している以外に具体的に情報はなかった。
今回のシングル発売は率直に言って嬉しい。最新化された彼らの音楽はなかなか魅力的だったが、ビックネームだからこその部分も否めないと思った。何故、そう思ったのかを掘り下げてみたい。
ビックネームだから
ハイスタは90年代に売れたメロコアバンドで、2000年に活動休止をしている。それから2011年の再結成までは各々のソロや音楽活動は続けている状態で、再結成後は新たな音源のリリースはなかった。サラっと書いたがこの中には紆余曲折があり、知りたければ活動休止や再結成あたりを調べてみると良い。(本節には関係があまりなので書かない)
昔の絶頂期のハイスタを知っている人はきっと今回の『ANOTHER STARTING LINE』は新曲というだけで飛びつくだろうなと。単純に大御所の久々の新作なのだ。それだけで飛びつきたくなる気持ちは凄くわかるし、自分もその一人だ。それが悪いとは言わないし、そういう音楽の知り方や聴き方も良いと思っている。
じゃあ、これが無名の新人バンドがやって売れるかというと売れない可能性がとても高い。99.99%売れないと言っても過言ではない。やっぱり、この辺はハイスタが自分たちの名前の価値を知っていて、その上で突然発売することがサプライズに成り得るというマーケティングがしっかりできた上での話だ。どのアーティストでも同じような結果を得られるわけではないし、オリコン週間一位はさすがの一言。
新作のサウンド
『ANOTHER STARTING LINE』収録の4曲を聴いて、最高の音を聴かせてくれていると思った。それは、元々持っているハイスタのサウンドをさらにアップグレードした姿を体現してくれたから。
自分はハイスタのアルバム『MAKING THE ROAD』が一番好きなアルバムで、今まで発売した中で最新(とはいっても1999年発売)のものと比べての感想だ。あれから15年以上を経ての音楽なので単純比較はできないのだが、他の基準を探すのもなかなか難しい。
全体のバランスが2010年代のものになっていて、ちゃんと最新化されている。『MAKING THE ROAD』の頃の難波のベースは明らかに浮いていたが、横山のギターの音域が若干ボトムにも届くくらいの音域で鳴っている為、本来のベースの役割を果たしている。そして、ハイスタはあまりへヴィなサウンドには仕上げない。その中核はベースが前に出過ぎないことであり、ドラムが重たすぎるリズムを刻まないことなのだが、そこは相変わらず守ってくれている。
また、横山のギターが妙にドンシャリだが、ハイ~ミッドハイにピークがあるヌケの良いサウンドであるのが印象的である。横山のソロ曲「I Won’t Turn Off My Radio」でもGretschのフルアコ(White Falconをベースとしたオリジナルモデル:THE KENNY FALCON)をかき鳴らしつつ、その良さが全く生かされてないんじゃないか?と思ってしまうドンシャリサウンドを出している。
もしかしたら、ソリッドボディのエレキだともっとゴリゴリのサウンドになりすぎてしまい、メタルみたいになってしまうから丁度良いところでバランスをとっているのかもしれない。直近のソロのサウンドを聴けば妥当なギターを鳴らしていることになる。以前のギターサウンドはもう少し太さがあったが、最近のアンプはDiezel Herbertでドンシャリにしているので使用機材の変化や好みの変化がありそうだ。
難波のベースも今回のシングルに至ってはほぼ同じサウンドで通しているように聴こえる。こちらも極端ではないがドンシャリで若干歪んだガリガリとしたベースを鳴らしている。こういうベースサウンドもまさに最近の流行りで、ちょっと音が引いたとき(AメロやBメロ)にちょっと派手に聴こえつつ、サビなんかの盛り上がったときにはしっかりと全体に混ざっていい具合に低音を支えてくれるサウンドなのだ。
恒岡のドラムはチャットモンチーやその他サポートで聴いたドラムとは全然違う。大きく違うのはこここそ主戦場と言わんばかりの”生き生き感”が感じられるグルーヴだ。元々突っ込んだビートは叩けるドラマーだが、その安定感がさらに増している。シンプルにビートを刻むだけではなく、ちゃんとフィルインをキメたり、引くところはしっかりと引いて曲全体の押し引きを行うドラマーとしてのバランス感覚はさすがだ。ドラムサウンドは今までで一番へヴィでタイコに寄ったミックスになっている。以前はもっとデッドでアタックが強いサウンドだったが、今回はしっかりと胴鳴りをとらえて太さが出ている。その分かりやすさは「ANOTHER STARTING LINE」のイントロのフィルイン(スネア、タムがしっかり鳴っている)で分かるはずだ。その分、引き算としてギターにカブるハイハットやシンバル類は抑えめになっているので、鳴り物が少な目で重心が低いドラムに仕上がっている。
最後に、ハイスタの全体的な演奏が巧くなってない?と思った。ハイスタは今まで発表した音源を聴いていてもプロの中では割と粗目の演奏をしていて、グルーヴのうねりも生まないくらい微妙な演奏も多々ある。ただ、難しいのがこのパンクをベースとしたメロコア畑は楽器演奏のテクニックは必要である一方で、若干の下手くそさが生むロックンロール感が持つカッコよさがもう一つの魅力であったりしてバランス感覚として若干粗目の演奏がカッコイイのだ。それと比べると、今回の『ANOTHER STARTING LINE』収録の4曲は演奏として非常にまとまっている。直近のアルバム『MAKING THE ROAD』はメンバーが30歳前後の頃の作品でそろそろ若さも…ということを全く感じさせない演奏だが、あれから15年以上経過して40も半ばのメンバーの演奏が上手くなっている!!!これは嬉しいけど、最近はデジタル化のお陰で修正もある程度利くようになったのだが、一ファンとしてそうじゃないと信じたい。マジで。
変わらないメッセージ
ハイスタの魅力の一つに歌詞のメッセージ性があると思う。英歌詞で歌われてしまうので一回聴いただけでその内容が理解できる人は少ないかもしれないが、歌詞カードをよく読んで、何ならPVの字幕で歌詞の意味を理解すると結構聴いている人に語り掛けてくれているのだ。もちろん、今回の「ANOTHER STARTING LINE」だって例外じゃない。どう聴いたってハイスタから我々ファンへのメッセージじゃないか!!!!!
"I'm home again"で始まるところから、”待たせたな。やっとお前たち(聴いてくれる人)の前に帰ってきたぜ”と言ってくれる。そこから"I know you were always on my mind"と歌ってくれている。そう、ずっと我々はhomeを心の中に持って待っていたのだ。サビには"Now I got a song for you"と歌う。この"you"はどう考えたって心待ちにしていたファンじゃないか。この再会の喜びをお互いに感じあえることが本当に嬉しい。その気持ちを歌ってくれるのがさらに嬉しい。
それだけではメッセージは終わらない。"Just another start line you and me" あくまでこれは再始動でありここがスタート。これからを楽しみにしてくれと言ってくれている。16年リリースを待ってよかった。
もう一つ、この曲のコーラスは我々の言葉を代弁してくれていないだろうか?
サビの"Can't you see"に対して"It's all right"や"I can see"に対する"It's all right"は我々がハイスタへ「大丈夫、大丈夫だからやるべきことをやってごらん」とメッセージを発せる場所なんじゃないか。ライブでこの曲をやってくれるなら、自分はしっかりとハイスタにレスポンスを返したい。こんな風に我々ファンの居場所まで作ってくれる曲はそんなにたくさんはないはずだ。
最後に
今回これを書こうと思った経緯はざっくりこんな流れだ。
ハイスタの新作が発売された!→聴きゃなきゃ!とドキドキ→聴いてみてめちゃくちゃカッコよくでワクワク!→曲のメッセージを読み解いたらテンションMAX!
というわけで、あまり論理的に語れておらず、感情の方が走ってしまっているかもしれないので、その点はご了承いただきたい。
元々自分はロック小僧で、2000年前後は洋楽のハードロックやメタルをメインで聴いていたのでハイスタをしっかり聴いたのは活動休止後だ。そういう意味ではリアルタイムでハイスタの音楽を体感していない。それでも「ANOTHER STARTING LINE」が最高の作品だってことは分かるし、こんなポジティブで最高のメッセージが含まれた曲を見つけるのは苦労しても無理かもしれない。
曲の中でもこれが新しいスタートだと言っている通り、12月7日にはカバー曲のみを収録した新たなシングル「Vintage & New, Gift Shits」をリリースされるとのことだし、12月3日からは東北地方と新潟を回るショートツアー「GOOD JOB! RYAN TOUR 2016」の開催も決定しているとのことだ。
ハイスタの新たなスタートは最高のスタートを切った!!!
こちらからは以上です。