ゲスの極み乙女。の2ndアルバム「両成敗」を聴いたので、全曲の感想とその内容に触れておきたいと思う。
どうもゲスの極み乙女。はちょっと変わったアレンジをしたり、めちゃくちゃなこともやるのでその辺に注目しつつ、楽曲の内容にも触れていく。
なお、全作詞、全作曲は川谷絵音。
川谷先生は暗い曲ばかり書くから気を付けてほしい。
1. 両成敗でいいじゃない
アルバムのオープニングにふさわしいゲスの極み乙女。らしいサウンド。
それは前に出すぎないギターとリズム隊とピアノを基本とした音作りである。
この曲はアルバムのオープニングにして、このアルバムらしくてゲスの極み乙女。らしい曲。
イントロのギターとベースのユニゾンは変拍子に聴こえるが、3+3+2拍子になっていてケツは合わせてある。
全体的には4つ打ちのビート+裏打ちでたまに16分のフィーリングがあるのはいつも通りである。
楽曲自体は川谷節が炸裂しており、結局何が両成敗なのか分からない。
むしろ、両成敗が何かなんて伝える気はないんだろう。
2. 続けざまの両成敗
また両成敗が出てくる。
相当両成敗というキーワードが気に入ったのだろう。
始まりからギターがリードをとっていて、川谷のもうひとつのバンドに似合いのイントロである。
両成敗でいいじゃないとくらべるとノリが違っていて、8ビートがベースとなっている。
そして、最後のサビ前のブリッジにアナログシンセのピコピコサウンドと打ち込みのリズムを入れてくる辺りがひねくれていていい感じだ。
これは「キラーボール」でクラシックピアノの「幻想即興曲」を取り込んだ手法と同じ。
3. ロマンスがありあまる
『ストレイヤーズ・クロニクル』主題歌、トヨタ・スペイド/ポルテCMソング
CMでもお馴染みの曲だが、川谷の歌い方は他の曲に比べて柔らかい。
その一方でテンポは速いのに細かくリズムを刻んでいてその対比がおもしろい。
楽曲の構成は今までのシングル曲とあまり変わらない。
そして、サウンドもいつものゲスの極み乙女。である。
歌詞はどうも男目線で背伸びして頑張っちゃった感じが出ている。
身の丈に合わないことをやって、やっちまったなということなんだろう。
4. シリアルシンガー
ゲスの極み乙女。の古典ダンスソング。
いつもの早口で歌詞を詰め込むようなことはしていない。
ピアノも出てこないし、16ビートのファンキーさもない。
あえて武器も得意分野も捨てたこの曲は退屈に聴こえるかもしれない。
シリアルってCerealのことではなくて、serialのことで一続きの数字を表している。
通り過ぎるものの一つでしかなくて、その人の中にとどまることができない悲しみを歌っている。
5. 勤めるリアル
イントロでは気づかないが、実は最速のテンポを叩き出している。
サビでは珍しくほないこかの2ビートを聴くことができる。
このアルバムの中では割と2ビートが多用されているが、普段はあまりやらない。
サウンドのなかにギターがないのがもうひとつの特徴で、案外ギターがなくても問題ないことに気づく。
珍しく恋愛に関わらない、仕事についての歌詞になっている。
それでも、仕事を辞めよう思っている人を描いているあたりがさすが川谷。
全部マイナスに持って行ってくれる。
6. サイデンティティ
映画『ストレイヤーズ・クロニクル』挿入歌
サイデンティティはsigh(溜息をつく)とidentity(自己同一性)を含んだ造語で、アイデンティティがわからなくて溜息をついている様を表現したと川谷が発言している。
それだけに自分が分からない、君に答えを求めるけど君も答えはないし、第三者にも答えがない。
それを表しているのが2回目のサビが終わって間奏後の静かなブリッジだ。
川谷と二人の女性が登場するところがこの曲のハイライトだ。
裏打ちのドラムに対して、オクターブを駆使したベースラインではただのダンスソングになってしまいそうだが、ベースラインはリフに寄り添っているのでそうならない。
この曲の展開はラストに向けて盛り上がっていく形をとっている。
ラストを迎えてもやはり分からないものは分からないままだ。
7. オトナチック
dヒッツCMソング
王道のゲスの極み乙女。ソング。
Aメロが早口で歌詞を畳み掛け、Bメロからコーラスで世界を広げてサビへ向かっていく。
あまりにも平常運転すぎて何も言うことがない。
何かを引きずっている感じの歌詞は全体を通してあるんだけど、この曲は少しだけ前に向いている。
全部背負うことを大人といっているので、そうはなれないけどやってみろよと珍しくメッセージが入っている。
8. id 1
川谷流フォークソング。
アコースティックギターに少しリズムトラックが入っている程度。
歌詞の暗さは相変わらずなのだが、珍しくメジャーキーなので拍子抜けしてしまう曲。
9. 心歌舞く
鍵盤よりもギターがバッキングの中心になっていて、いつもよりソリッドなサウンドなのかと思いきやサビ以降はオルガンが入り全員で音を出すことを忘れない。
ブリッジにディレイを効かせてフレーズをぼかしているのが印象的。
サビの「さよなら さよなら さよなら」はキャッチーではあるが、別れた過去に対して言っていて思い出して再度別れを告げているように思う。
10. セルマ
セルマは女性の名前シリーズの一曲で、女性の名前である。
ずっと缶ビールの味を気にしていて、思い出せないのは酔ったせいにしようとしているけど、実はトラウマになっていそうな感じ。
やっぱりこの曲も別れた後に誰かを思い出している。
11. 無垢
次の無垢な季節へのブリッジトラック。アルバムらしく楽曲の連続性を感じられる。
ピアノがずっと流れていき、そこにセリフ状態の歌詞を語っていく。
裏には無垢な季節のサビがコーラスで
一度別れて、最後に「無垢な季節が来たら迎えに行くよ」と閉じるのはいいかもしれない。
どうもこれはベッキーとの件が重なる。
12. 無垢な季節
夏が終わった切なさがあるはずなのに、楽曲の疾走感が半端じゃない。
ほないこかのドラムがずっと16分を刻んでいるせいでなんだか忙しない。
PVにゲスくんとユリが出ているのでそちらも要チェック。
悲しい季節を一気に通り過ぎていく楽曲だ。
13. パラレルスペック (funky ver.)
EPの「みんなノーマル」に収録されているパラレルスペックの別バージョン。
funky ver.の方がその名の通り細かく刻むことによってファンキーさを出していて、サウンド的にも軽さがある。
特にスネアのオープンな鳴りが印象的である。
楽曲的にはずっと交わらない人、平行線(パラレル)な人を歌っている。
ずっと分かり合えない。そういうこと。
14. いけないダンス
ギターが入っていないよりポップなサウンドに仕上がっている。
踊ることと涙を流すことばかりで良いことではないけど、いけないダンスをしてしまっている。
どうもこのいけないダンスが不貞行為に思えてならない。
そう思うと歌詞の辻褄があうのではないだろうか。
15. 私以外私じゃないの
コカ・コーラ「ネームボトルキャンペーン」CMソング
全体のノリはお得意の16ビートをベースにしたファンキーなもの。
いつもと違うのは休日課長が普段にもまして細かい音を刻んで動きまくるところ。
最初聴いたときはアイデンティティの話なのかと思ったけど、どちらかといえば川谷が良く書く人間同士が分かり合えないことを書いている。
最後の歌詞
私以外私じゃないの
どうやらあなたも
そう誰も替われないってことみたいね
多分、これが言いたかっただけじゃないか。
16. Mr.ゲスX
ドラムのデッドな音作りやアナログシンセの音は、古いダンスミュージックを思い出させる。
Xという人を探す歌詞だけど、登場人物はメンバー4人である。
最後の最後に超へヴィーなブラストビートをかましてくるあたりがゲスの極み乙女。がやる音楽をぶっ壊すってことなのかなと。
17. 煙る
android / iOS用RPGアクションゲームアプリ「消滅都市」CMソング
珍しくサビで大きなリズムを刻むバッキング。あまりこのパターンはなかったかもしれない。
あまりギターが前に出てこないこの曲を最後に持ってきたのはなかなか攻めたんじゃないだろうか。
もう別れる寸前のカップルを想像して聴くといいかもしれない。
別れてから分かることもあるし、終わると分かって気づくこともある。
多分、そういうギリギリのところをお互いが認識している状態を歌っていそう。
終わるのは関係なのか命なのかは消滅都市のCMソングから想像してもよいだろう。
全体を通して
楽曲の気持ち悪さやファンキーなノリの気持ちよさはあるけど、どう考えても王道とは言えないし、ゲスの極み乙女。がメインストリートにいると思われては困る。
あくまで異端で、その変わり具合が適度だからまだ受け入れられる程度に整形されているから聴ける音楽だ。
特にタイアップのついた曲は割と普通の楽曲だが、アルバムの1曲は本当に危険。
だけど、普通の音楽に飽きているなら是非とも聴いてほしい。
川谷が自分たちは闇鍋だと言っていたことがあるけれど、何が出てくるか分からない楽しみがある1枚で、楽曲ごとの色や素材を楽しめると思う。
全体的に印象的なのは川谷のメインボーカルに対する女性コーラスの役割の大きさ。
様々なところで顔を出して、あるときは楽曲に寄り添い、ある時は女性として現れる。
佐々木みお、服部恵津子という2人のコーラスが楽曲のクオリティに貢献をしている。
ほぼどの曲でも顔を出すし、何か茶々を入れている。
多分、これがないとただ暗い歌詞とファンキーなノリの聴きにくい音楽になってしまう。
そこに女性コーラスを入れることで暗い歌詞とファンキーなノリの間をつないでる。
そして、やっぱり歌詞が暗い。
耳につく言葉はキャッチーなんだけど、どれもマイナスなイメージの言葉ばっかり。
その内容も大抵別れを想像させるし、男目線でも女々しいものがほとんど。
2010年代は案外こんなもんだぜ?と言われている気がして、1990年代のアメリカのオルタナティブロックの暗さとはまた違う、ネットと現実の間の2.5次元の闇の深さを感じられてならない。
最後に
ゲスの極み乙女。は演奏の評価もよく、キャラも立っていてタイアップもよくつくバンドで、TVにも(色々な意味で)顔を出すバンドなので、触れる機会はある方のアーティストだ。
ワイドショーを賑わそうが、不倫をしようが離婚をしようがいい音楽を作り出し続けてくれれば自分は正直何でもよい。
とても普通の組み合わせとは思えないことを組み合わせて音楽にしているので、今後も新たな世界を見せてほしいと思うだけである。
こちらからは以上です。
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