1.ムーンソング
2.Kaiju
3.Girl A
4.Claw
5.O₂
6.Feel like
7.Aoyama
8.Nawe, Nawe
9.Buzz Off!
10.クソッタレな貴様らへ
11.Swan
12.I want u to love me
13.今まで君が泣いた分取り戻そう
14.NEW WALL
オススメ曲→3、6、8、11、13、14
前作『ALXD』から約1年4か月ぶりの2016年11月9日発売[Alexandros]の6thアルバム『EXIST!』を聴いた。
前作の5thアルバム『ALXD』は気に入って、2015年下半期にパワープレイしたアルバムだったのもあって、次回作はとても気になっていた。
このアルバム前にも11thシングルの「Girl A」、12thシングル「NEW WALL/I want u to love me」、13thシングル「Swan」と追いかけてきたのもあり、14曲中5曲は知っている曲だ。そこから推測するに、邦楽・洋楽を股にかけてロックの中心から深淵までを行ったり来たりするのかなと思っていて、割とその通りになっていた。また、やけに1曲1曲から別な曲を連想させられることが多い作品だった。
1曲目「ムーンソング」はオープニングではあるが、これは完全に10thシングルの「ワタリドリ」そのもの。イントロからアコギをガチャガチャしながら、ピアノが旋律を奏でる。そして、サビのドラムのリズムやテンポ感は完全に「ワタリドリ」だ。前作からの繋がりとしてのオープニングとしては安心感がある曲だ。
2曲目「Kaiju」はお得意の全て英歌詞。ドラムをクリップさせた音色はちょっと打ち込みっぽさを出しつつソリッドなギターはザラザラとした歪みとドロップDチューニングによるリフでアメリカンなAltertive Rockスタイル。Kaijuは怪獣のことを指していて、ゴジラをGozillaと書くのと表現としては似ている。このKaijuは肥大した自尊心を歌っていそうだ。
3曲目「Girl A」はドラマ『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』オープニング曲で11thシングルでもある。シンセリードと対をはるようにへヴィなバンドサウンドで迎え撃ち、ヴァースのフィルターが掛かったヴォーカルとコーラスのナチュラルなヴォーカルの対比による解放感が気持ちよい。何より、公正がヴァース・コーラス形式なので短い間隔でヴァースを聴けるのでどうしても印象に残る。Girl Aって日本語にすると少女Aで一気に陳腐に思えるのは自分だけだろうか。この曲の歌詞は自分がない人を描いていて、自分(1人称)すら少女A(三人称)に思えている状態の世界だ。
4曲目「Claw」のフィルターを通して歪んだドラムとガリガリのギターとベースから連想させるのはTHE MAD CAPSULE MARKETS。しかも、リズムがシェイクなのでマッドの「Pulse」辺りととても被る。もちろん、あんなにへヴィなサウンドではないのだが、似た匂いがする。そんな音色でもしっかりとらしさを出しており、日本語と英語を行ったり来たりして自分の生き方はいいだろ!と胸を張って歌っている。
5曲目「O₂」はここにきてほとんどビート感のないバラード。たまに裏でカサカサ細かいドラムが鳴るが、この辺の感覚はEDMあたりからくるものだろう。とてもフワフワしていて、さっきまでの重さとか勢いを一気に止める緩衝材のような曲をこのタイミングで持ってくるなんて。この曲はエグ味のないBjörkといった感じ。
6曲目「Feel like」はGLOBAL WORKのCM曲で何回も耳にしている曲で、5曲目の「O₂」のフワフワ感を少し残しつつ、軽快に刻む曲になっている。この歌詞の様に気分を軽く歌うとどうしても春をイメージしてしまう。英語の発音も心なしか軽やかで。そして、2:43で終わってしまうこのアルバム最短の曲でもある。
7曲目「Aoyama」は一転Maroon5のようなファンキーなギターとダンスミュージックのようなシンセと重心の低いドラムが紡ぎだすオシャレ楽曲。きっと東京の青山をイメージしているし、歌詞の中に出てくる街並みは青山だ。今までこれ系のブラックミュージックっぽい楽曲は見せてこなかったんじゃないだろうか?その意味では新境地。
8曲目「Nawe, Nawe」は映画「ターザン:REBORN」の日本語版主題歌。日本語版主題歌なのにすべて英歌詞なのは言っちゃダメ。重厚なストリングスvsロックバンドの構図で壮大に仕上がっている。準備は整ったからあとはやるだけと歌っているだけで、英歌詞だからか歌詞の繰り返しの多さが手抜きに感じられて気になるのは自分だけか。他の楽曲でも似ている感じのMuseのイメージが頭を過った。アルバム的には『Absolution』や『The 2nd Law』にありそうな感じ。
9曲目「Buzz Off!」はちょっと手荒なOasis。実際はOasisはこんなにハードにギターをかき鳴らさないし、ジミヘンコードも使わない。なんどなくグシャっと始まり、ショートディレイが効いている感じは狙っているでしょう。珍しくロックンロールの”ロール”の部分が出ている曲ではあるが、サビになるといつもの調子に戻ってしまう。[Alexandros]流のロックンロール曲。
10曲目「クソッタレな貴様らへ」はロックバンドの生活を描いた曲。1曲目の「ムーンソング」とは異なるオルタナ感を醸し出すイントロ。リフを何種類も組み合わせテンポも4度変わる。フランケンシュタインのような楽曲の組み方はかなり実験的で刺激的だ。
11曲目「Swan」はドラマ 「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」主題歌。イントロこそ打ち込みで静かに始まり、オートチューンのかかったヴォーカルが加わってデジタルを押してくるのかと思いきや、ドラム、ギター、ベースと楽器が増えるごとにバンドサウンドがソリッドで案外ストレートなロックに仕上がっている。タイプ的には[Alexandros]お得意のデジタルとロックを融合したサウンドだ。それでも、右チャンネルのギターがワーミーペダルを使っているのか、ウィンウィン鳴るのはシンセのようだがあくまでギター。そして、ブリッジではファズで一気に図太いギターサウンドと変化をつけるのはなかなか良かった。一瞬で心を奪って通り過ぎて行った人のうた。
12曲目「I want u to love me」はイントロを聴いてCOMPLEX「恋をとめないで」を連想した。テンポといい、ちょっとチャイナ感のあるリードはまさにそれ。そして、歌っているのは愛してほしいと言っているし、テーマも似ているんじゃないか。2回目からはもう少し左のギターがブリブリ鳴っているから別に聴こえるが、現代版COMPLEX「恋をとめないで」決定。
13曲目「今まで君が泣いた分取り戻そう」は他の楽曲に比べて圧倒的に歌詞が聴きとりやすく、分かりやすいメッセージを伝えてくれる爽やかな曲。この曲でもストリングスが入っているが、これは8曲目「Nawe, Nawe」の重厚さとは違い優雅な雰囲気を与えてくれる。歌詞は川上洋平流セカイ系で、ホンモノのセカイ系よりもライトな仕上がり。
14曲目「NEW WALL」はスマートフォンアプリ「テイルズ オブ ザ レイズ」テーマソングだが、自分はラジオで聴いたことがあった。これもストリングスとピアノとラストのコーラスがサウンドを豪華に仕上げていて、とても広がりを感じるものとなっている。とても大きな壁を創造させるのに、それに向かう気持ちはとても前向きで歩みも軽い。おかしい、壁は邪魔な障害なはずなのに、こんなにうれしそうにその壁に向かう姿が想像できるなんて。NEW WALLにHELLOなんて挨拶ができてしまう不思議な世界観。
ちなみに15曲目に「[Secret Track]が収録されており、バンドのリハを1発でとったようなサウンドと曲になっている。自分がスタジオで練習を録音した時の音質とよく似ていて何だかむず痒い。詳細は不明だがバンドメンバーだけでも十分[Alexandros]らしい楽曲になっているのが分かる。
何かの楽曲や特定のバンドを連想させるのが悪いと言っているのではない。主にソングライティングを行っている川上洋平の音楽のバックグラウンドが見え隠れしていて、アレンジにはバンドメンバーも関わっているので、そのバックグランドも見える。これだけ色々なものを聴いてきて、昇華させて今のサウンドや楽曲に仕上げているということなんだと思う。
2010年代のロックは9曲目「Buzz Off!」のようなロックの初期衝動であったりロックンロールの”ロール”を見せなくなってきているし、EDMの流行もあり、3曲目「Girl A」のようなデジタルとアナログの融合もテーマになっている。そして、アメリカ・イギリスのMaroon5やMuseみたいな流行りのロックも取り入れ、何なら2曲目「Kaiju」ではラップだってしているし、全て英歌詞の曲だって歌う。1990年代以降の音楽を全て吸収して、自然にアウトプットしたら現在のロックを表す作品に仕上がったんじゃないだろうか。メインストリートに散らばっているロックを集めて1つの作品にしているとしか思えない。
これをロックじゃないとか言うのは簡単だが、そのロックは進化を続けていていろんな要素や別なジャンルから影響を受けて取り込んでいる。その変化についていけないのを棚に上げてロックじゃないなんていうのはカッコわるくないか。そう思わせてくれるいい作品だった。
こちらからは以上です。