ロックの特徴の一つに歪んだギターの音色がある。これはエレキギターの音を増幅するアンプに使われていた真空管に過大な電流が流れることで、音が歪んだことに因るもので、ダイナミックで太いサウンドになるため今でも愛され続けている。
歪んだギターは年代を追う毎に深く、多彩な歪みが生まれてくるようになり、ハードロックやへヴィメタルで使われるディストーションはJ-POPでも普通に使われるようになった。エレキギターの音として特別な音ではない。だからこそ、インパクトのある奏法でより音楽的に魅力的にしようとするテクニックとしてピッキングハーモニクスがある。ピッキングハーモニクスはピッキングと共に指で弦に触れることで倍音をコントロールし、音が裏返ったような実音よりも高い音に変わるのが特徴。ヴォーカルがシャウトをするように、ギターはピッキングハーモニクスでより派手に音楽に表情を付けるのだ。
そんなピッキングハーモニクスが入ったカッコイイリフが輝く楽曲を紹介したい。なお、どうしてもピッキングハーモニクスの特性上メタルが多くなるのはご了承いただきたい。
I Don't Want To Change The World/Ozzy Osbourne(Zakk Wylde)
この曲に限らず、Zakk Wyldeはピッキング・ハーモニクスを多用する。この曲の収録されているアルバム『No More Tears』も全体的にピッキング・ハーモニクスが多いのはZakk Wyldeらしさ。
リフの締めくくりに繰り出されるピッキングハーモニクスがリフをド派手にしているのが、最高にカッコいい。
Zakk Wyldeが気になるなら、Black Label Societyも要チェック。
Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)/Mr.Big(Paul Gilbert)
Mr.Bigの代表曲の一つであり、ドリルを使った演奏が聴ける超変則ソングながら、そのリフは王道のハードロックそのもの。
キレのあるリズムの中に飛び出すピッキングハーモニクスがフレーズを引き締めている。
ロックのツボを抑えた気持ちの良いリズムのリフを聴きたいなら、 Paul Gilbertは最高だし、ツボのポイントとしてピッキングハーモニクスを繰り出すセンスは秀逸。
Bad Boys/Whitesnake(John Sykes)
David Coverdaleが中心のWhitesnakeはメンバーがどんどん変わっていく。 Davidが参加していたDeep Purpleの流れを汲んだ王道を行くハードロックが特徴。
Whitesnake史上一番売れたのが1987年の『Whitesnake(邦題:白蛇の紋章〜サーペンス・アルバス)』であり、その中でもハイテンポでガリガリ刻まれる中でピッキングハーモニクスが光るのがこの曲だ。
John Sykesの荒々しいギターはソロアルバムやBlue Murder辺りがオススメ。
Psychosocial/Slipknot(James "Jim" Root,Mick Thomson)
ニューメタルの筆頭株Slipknot。デビューした1999年はロック不毛の時代であり、ギターソロカッコ悪い・へヴィなギター最高な時代だったわけだが、それから約10年が経過して発表した『All Hope Is Gone』はギターソロも全開だし、リフもキレキレで歌がメロディアスなアルバムに仕上がった。
今までの音楽性とこれからを示した音楽性が上手く混ざり合ったのがこの「Psychosocial」であり、イントロのリフでピッキングハーモニクスがキマりまくってカッコイイ。
紅月/BABYMETAL(Leda,大村孝佳)
アイドルとメタルを掛け合わせたBABYMETALはしっかりとメタルの部分があるので、楽器のプレーヤーの目線からも楽しめるバンドである。何より参加しているミュージシャンがそのジャンルのトップレベルのスタジオミュージシャン達なのだから、間違いない。
オープニングを飾る歌が終ったのちに、バンドが入ってきてテンポがあがる。 リフがガリガリなっている中で、フレーズの〆として繰り出されるピッキングハーモニクス。狙って狙ってウリャー!と鳴らすピッキングハーモニクスではなく、流れの中で自然にとてもスムーズに鳴るピッキングハーモニクス。これは美しいフレーズの〆方であり、プロがプロである所以が分かるテクニックでもある。
下手をすると流してしまいそうになるくらい自然だが、このピッキングハーモニクスがないとフレーズが全然締まらないし、普通のゴリ押しのリフになってしまう。
Fever/Bullet For My Valentine(Michael "Padge" Padget)
Bullet For My Valentine(以下、BFMV)は結成こそ1998年だが、メジャー作品を発表し始めたのは2005年なので、実質2000年代のバンドである。ロック不毛時代を生き抜いてきたバンドとしての実績は大きい。
BFMVのメタルはヘヴィだが、聴きごたえがあるハリのある音楽性がある。そして、そのヘヴィさ故にピッキングハーモニクスのヌケも大きく感じる。特にこの曲のように7元ギターの低音弦をゴリゴリ刻むようなリフは本当にカッコいい。
ゴリゴリ押していく中で、ブレイクの中ギターだけピッキングハーモニクス。バンド全体でヌケ感を作るこのアレンジはカッコよさのツボをおさえてる。
Lie/Dream Theater(John Petrucci)
壮大で超テクニカルな音楽を難しさを感じさせず演奏してしまうDream Theater。 Progressive Metalと呼ばれるだけあって、変拍子も何のその、10分を超える壮大な楽曲や、アルバム1枚を通してコンセプトアルバムになっているなんてことも。そういう部分がプログレッシブと言われる所以だろう。
テクニックはかなりの量が盛られているのだが、ギターのJohn Petrucciのちょっと変則的なピッキングハーモニクスが聴けるのが、この曲。イントロのリフが始まり、展開が始まったところでちょっと立ち上がりが遅い低音弦のピッキングハーモニクスが鳴る。しかも、追い打ちをかけるようにビブラートが効いてくるわけだが、こういう合わせ技が所々に出てくる。
テクニックだけを聴く音楽ではなく、クラシックの様に展開の大きさやアルバムのコンセプトを楽しむのもDream Theaterを楽しむ側面ではある。もちろん、テクニックは最高なのでコピーをするとその凄さがより一層引き立つ。
Kiss of Death/Dokken(George Lynch)
Dokkenというと80年代のLAメタルのバンドで、 George Lynchが在籍したころが全盛期といっても過言ではない。バリバリのディストーションがかかったギターのリフをザクザク歯切れよく刻む気持ちよさといったらない。
この曲ではリフの〆にピッキングハーモニクスを使う基本的なパターンだが、イントロが長いおかげでピッキングハーモニクスの登場回数が異常に多い。
そんなに使うか?とも思いつつ、そういう過剰さも当時のLAメタルっぽさなので、良しとされた時代だったということだろう。
Straight Through the Heart/Dio(Vivian Campbell)
Dioと言えばジョジョ...ではなく、メタル界のゴットファザーRonnie James Dioが率いるバンドである。そのため、Ronnie以外のメンバーは入れ替わりがそこそこある。また、WhitesnakeやRainbow、 Black Sabbath等有名バンドに加入していたりと、一流のミュージシャン集団なのは確かだ。
その中でもDioで80年代前半に活躍し、後にDef Leppardに加入したVivian Campbellのギターがなかなかカッコいい。現在に比べると音の太さこそ少ないが、いい感じにドンシャリに歪んでいる。リズミカルでフックのあるリフとしてもなかなか秀逸だろう。
この曲のピッキングハーモニクスの使い方はフレーズの〆に使うのではなく、〆の直前に使って跳躍感を出しつつ、元の鞘に戻るこのようなフレーズは案外少ない。
Die Boom Bang Burn Fuck/Dope(Virus)
2000年代のメタルバンドDope。Nu Metalっぽい雑食でIndustrial MetalやAlternative Rockと、王道を外すメタルを生み出し続けている。アルバム毎に音楽性が変化しているように聴こえるが、いくつかの音楽性の割合が変化しているだけで根本はあまり大きく変わってはいない。
ダウンチューニングや7弦ギター、5弦ベースにアタックの強いドラムという、今やスタンダートな音だが、そんな音だからこそピッキングハーモニクスがキマるとカッコいい。
この楽曲でも繰り返しのフレーズの1つをピッキングハーモニクスにすることで、ハードさとヌケがある。しかも、4回の繰り返しのうち、1回目は軽く、2回目3回目とピッキングハーモニクスのかかりが深くなっていく。繰り返しを退屈にさせない基本テクニックだが、それをピッキングハーモニクスでやってのけたのがこのリフのセンスの良さ。
Bring Me To Life/Evanescence(Ben Moody)
1stアルバムのリード曲のこの曲が、映画とのタイアップもあり大ヒットしたEvanescence。Gothic Metalが強いので、メタル感とともにクラシック要素が大きく入ることが多く、ストリングスや鍵盤が加わって壮大で華やかな楽曲に仕上がる。この曲もイントロはピアノとストリングスから始まり、2回目のコーラス後の展開とピアノが基本をおさえつつ、ストリングスで世界を広げる方法をとっている。
では、ギターの役割は何かというと、メタルサウンドの核となりつつヘヴィさを出すことがメインになるので、あまりメロディアスな動きも必要ない。パワーコードでザクザクリズミカルに刻むことであったり、白玉弾きで厚みを出すことが重要なアレンジになっている。そのため、楽曲のメインとなるリフというよりはバッキングとしての役割が大きい。
それであってもヴァースのギターとドラムの打ち込みが入ってくる箇所の展開があり、バッキングの中にピッキングハーモニクスを鳴らしている。これがフレーズの〆になっているわけだが、さらに効果的に使う箇所がある。1回目のコーラスが終り、2回目のヴァースが始まる前のブレイクでのギターのキメがピッキングハーモニクスで〆られている。こういうブレイクでの使い方は非常に効果的でカッコいい。
LADY NAVIGATION/B'z(松本孝弘)
日本を代表するギタリストの一人である松本孝弘。 ソロプロジェクトやサブプロジェクトは多々あるが、やはりメインであるB'zでの活動が最高なのは言うまでもない。30年のキャリアと活動歴を誇るロックユニットだけあって、楽曲は豊富にある。
その時期毎に少しずつ変化こそしているが、その根本に流れるテクニックとロックへのセンスとクオリティは最高のものだ。それだけでなく、コンポーザーとしても有能で、B'zの楽曲を作曲から支えている。それだけあって、松本のリフはキャッチーでメロディアスなものが多い。
この楽曲もまだ打ち込みとロックの融合期の楽曲だが、イントロでサビと同じメロディをリフ化して弾いている。しかし、そのままではなくしっかりと装飾を加えてロックギターらしく弾ききっている。イントロよりも2回目のサビ後のブリッジでのギターがよくわかるが、ピッキングハーモニクスを効果的に使って、フレーズに跳躍感とロック感を出している。
ミッドナイトシャッフル/近藤真彦
別にマッチの曲がカッコいいわけでも、ジャニーズが云々でもなく、たまたまこの楽曲がハードロックがアメリカで流行った後で日本で流行った時期の音楽なので、その当時のハードロックの色がでた楽曲なのだ。
今も昔もアイドルソングは楽曲としてのクオリティが高く、カッコいいロックギターがゴロゴロある。個人的にはこの楽曲がとても好きで、ギターソロも好き。自分の人生で5本の指に入るロックのギターソロ~邦楽編~でも1番に書いたくらいだ。
楽曲のレベルもそうだがフレーズもしっかりしていて、 リフでピッキングハーモニクスで音を裏返しつつ、さらに別なフレーズを重ねるような力業も決めているが、全然不自然ではない。オーバーダブの技術とピッキングハーモニクスを重ねるあたりのテクニックが罪深い。
最後に
ピッキングハーモニクスはあくまでロックギターのテクニックのうちの一つでしかない。だが、使い方によってはフレーズにインパクトを与えてくれる。ビブラートやチョーキング等の別なテクニックと組み合わせることで、 さらに強い個性を出すことができる。
良いフレーズを分析して、パターンを掴むと応用が効くので、是非カッコいいパターンをたくさんつかんでいただきたい。
こちらからは以上です。
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