Jailbreak

新しい世界の切り取り方

くるりはクリストファー・マグワイアがいた『アンテナ』が好き

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アンテナ

1.グッドモーニング
2.Morning Paper
3.Race
4.ロックンロール
5.Hometown
6.花火
7.黒い扉
8.花の水鉄砲
9.バンドワゴン 
10.How To Go

 

こればっかりは思い出も相まって、ちょっと自分の中では確定してしまっている話です。下手すると、くるりのアルバム・楽曲の中でどうとか、他のアーティストがどうとかという相対的なものではなく、絶対的な価値なんじゃないかと思っている。

 

その時期、そのタイミングで、とてもよく聴いていた音楽と記憶がリンクすることがある。それは、その音楽を聴くだけでその頃をを思い出すトリガーになる。

私を構成する9枚という記事を書いたことがあるが、その中に入るほどでもないが、一時期よく聴いていたのがくるりの『アンテナ』だ。高校生だった当時、テレビかラジオで「ロックンロール」を聴いて一発で心を持っていかれた記憶が蘇る。

ギターのほぼ曲中を通して繰り返されるリフに、もう一本のギターとベースが織りなすコード感とその間を小技を効かせながら突き進むドラム、それに乗っかるどこか切ない歌詞と綺麗なメロディ。昨日やりのこしたことに後ろ髪を引かれながら、明日の光に呑まれていくようなセンチメンタル感が何とも言えない。

 

「ロックンロール」を中心に『アンテナ』というアルバムを聴くと、 刹那の中で生きる人生を思い浮かべてしまう。自分が高校生という多感な時期だったせいもあると思う。アルバム全体として、後期ビートルズの様なとてもシンプルだけど、凝ったこと1つくらいブっこんでやろうという気概に溢れた雰囲気が余計にその力を増幅させているんじゃないかと思う。何より、このアルバムは最初から最後まで聴きとおすことで価値のある楽曲(例えば「バンドワゴン」)があって、そういう全体のバランスとしても絶妙だ。

自分はこのアルバムを1枚通しで聴いていられるアルバムだと思っている。どうしても、アルバム1枚全部聴き通すことが減ってきた近年でもこのアルバムだけは通しで聴ける。1曲1曲はそんなにでもなく、めちゃくちゃ聴きたい曲はまさに「ロックンロール」くらいなんだが、「この1曲があるから好きなアルバム」と「ずば抜けてよい曲はないが、全体としていいアルバム」の話でも書いた全体としていいアルバムなのだ。その全体としての良さは、岸田の楽曲へのアプローチの良さが前提としてあって、そこにクリストファーのパワフルだけどポイントをおさえた歌心のあるドラムがあることが大きいんじゃないかと最近気づいた。

クリストファーのドラムはロック然としていて、くるりがあまり今まで表に出さなかったロックの初期衝動を分かりやすく引っ張り出してくれている。「Morning Paper」や「Hometown」、「How To Go <Timeless>」のセッションのような時間の流れと、だたドラムをぶっ叩くだけじゃないダイナミクスの押し引き。楽曲に寄り添いつつ、引くときは引いて、押す時はゴリ押しできるこの技量は本当にスゴイ。それこそ分かりやすいのが「ロックンロール」で、イントロで手数を見せつけて、歌の後ろでは可能な限り手数を減らして淡々とリズムを刻む。これこそ、このアルバムの神髄に違いない。

 

このアルバムはオルタナティブロックだと思うのだ。あくまで、メインストリートを行くロックがあってのオルタナティブ。何故なら、このアルバムの1曲として明るくないのだ。「ロックンロール」だってメジャーキーで曲が構成されているのに、底抜けの明るさはない。別にどこも悪くないし、頭も良く働いているのに、何となく斜に構えたい気分に最適。±10の範囲で言うと、-2くらいのアルバムで、これくらいのマイナス感の方が逆に冷静に物事を捉えて、リスクも分かっている状態なんじゃないかとすら思わせてくれる。ダークサイドに落ちすぎないオルタナティブロック。そういう心地よさがアルバムをずっと貫いていて、BGMとしても全然生活を邪魔しない。

 

その後、くるりの別な作品を聴いてみるのだけど、全然ピンとこなかった。あの気だるくてちょっとダークだけど、ロック然とした楽曲やアルバムに全く出会えなかった。どうやら当時のライブの評判も良かったようだが、くるりはどんどん変化していくことを選んだんだろう。 今も最新作は一応チェックするけど、どうも『アンテナ』の時とは作風が違う。もちろん、「ロックンロール」で受けた衝撃とかそういうものがないのは仕方ないのだが、全体的に漂う雰囲気まで気に入っているので、なかなか同じものなんてない。そういう意味で、自分の中で唯一無二のアルバムが『アンテナ』なのだ。 

 

こちらからは以上です。

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