音楽を聴くときに何を基準にして聴き始めるだろう?
アーティスト名なのか、たまたま聴いたおかげで知った楽曲なのか、タイアップでバンバン流れている楽曲なのか。
きっかけは様々だったけど、振り返ってみると共通点があったりする。
それがたまたま音楽プロデューサーのHoward Benson(ハワード・ベンソン)だった。
Howard Bensonについて
右側の眼鏡をかけているのがハワード・ベンソン
音楽プロデューサーのハワード・ベンソンだが、日本で売れる洋楽アーティストのプロデュースをやっている割には情報が少なくて。
Wikipedia(英語版)にあるプロフィールを訳しながら紹介したい。
ハワード・ベンソンはアメリカの音楽プロデューサーでマルチプレーヤー。2007年、2008年の年間最優秀プロデューサーにノミネートされている。
最初のプロデュース作品はハードコア・パンクバンドの T.S.O.L.の『Revenge』(1986)、『Hit and Run 』(1987)で、メジャー作品としてはBang Tangoの『Psycho Café』(1989)だった。
1998年のSepulturaとの仕事でProTools*1を使ったのがターニングポイントだったと語っている。
そして、以下の様な様々なアーティストをプロデュースしている。
Cold、Crazy Town、P.O.D.、My Chemical RomanceThe All-American Rejects、Hoobastank、Flyleaf、Daughtry、Kelly Clarkson、Seether、Third Day、Theory of a Deadman、Three Days Grace、Adam Lambert、Skillet、Santana、Caleb Johnson.
プロデュース手法は2つ。
1つは嫌がらなければオートチューン*2をかけること。
もう一つはアーティストが別々に録音したパーツを組み合わせて音楽を作り上げる”パラレルシステム”と呼ばれる方法を使うのを好むのが特徴。そして、レコーディングが終了すると一人でさらにアレンジを加える。
1998年のProTools導入はかなり先進的な取り組みで、48kHz/24ビットのリニアPCM音声フォーマットをサポートした1997年くらいからなので、こういうものを取り入れたりオートチューンを上手く使う当たりは現代の音楽プロデューサーといった雰囲気。
パーツごとに音楽を組み上げていく手法もDAWを使う前提だし、ヘタな組み方をするとアーティストからクレームが来そうなものだけど、何枚もプロデュースを続けているアーティストも多数いて売れっ子プロデューサーなのは確かなので受け入れられる方法で音楽を作っているのだろう。
プロデューサーは野球やサッカーの監督をイメージしてもらうと良いかもしれない。
全体のバランスや得意な分野を伸ばしつつ強化するところは強化して、最終的な試合に勝つための指揮をとる。
楽曲制作から全体サウンドや曲順やプロモーション方法まで仕事は多岐にわたる。
売れるプロデューサーには仕事が集まるのは当然なのだ。
ハワード・ベンソンのプロデュース作品はへヴィでオルタナ感のあるサウンドに、適度にキャッチーで荒々しい歌い方のメロディがのる。
元々ロック畑で仕事をしてきたのもあり得意分野はハードコアやパンク、オルタナティブ・ロックなんだと思う。
Hoobastank『The Reason』との出会い
自分とハワード・ベンソンとの出会いはHoobastankの『The Reason』(2003)だった。
第47回グラミー賞最優秀ロック・アルバム部門、Song Of The Year部門にノミネートされており、ラジオのグラミー賞の特集の中でかかったのがきっかけで一気にお気に入りになった。
やっぱりグラミー賞にノミネートされる作品は良いし、賞を獲得してしまうとさらに拍がついてしまう。
MTV Video Music Awards Japanの最優秀ロックビデオを受賞したストーリ仕立てのPVはこちら。
色んな賞を獲って何だかよくわからないけど、凄かったのねと思ってもらえればそれで良しとして。
アルバム全体としてはもっとへヴィな曲が多くて、一番静かな曲がこの「The Reason」だったりする。
ここまでハワード・ベンソンは一切出てこないのだけど、後に紹介するアルバムを手にすることになる。
ある時プロデューサーに注目して音楽を聴いてみたことがあって、そこで自分の持っている洋楽のCDのハワード・ベンソン率がめちゃくちゃ高かった。
もちろん、洋楽のロックとかメタルばっかり聴いているとBob RockとかRick Rubin当たりも多かったけれど、それでも所有していて好きなアルバムと考えるとハワード・ベンソンだった。
Hoobastankは後の3rdアルバム『Every Man for Himself』や4thアルバム『 For(N)ever』もハワードのプロデュースで作品を残している。
アルバムを追うごとにキャッチーさやへヴィさよりもオルタナティブ・ロックの持つダークさの方が前に出てくるだが、詳しい話は別の機会にする。
ハワード・ベンソン プロデュース作品 おススメ11枚
1986年のプロデュース開始から現在に至るまで沢山の作品を手掛けている。
その中でも選りすぐりの12枚を紹介したい。
サウンドの傾向としてはへヴィなオルタナティブ・ロックが中心になるが、この辺のサウンドこそがハワード・ベンソンプロデュース作品のコアになる部分だとも言える。
P.O.D. 『Satellite』(2001)
アメリカのロックバンドP.O.D.の大出世作の2ndアルバム。
当時Limp BizkitやLinkin Parkなんかが全盛の時代で、いわゆるラップメタルが一世風靡していた。
そんな中に発売されたアルバムで当然ラップメタルをかましている。
ヴォーカルはラップしつつサビで歌い、ギターはダウンチューニングで、ベースは5弦、ドラムは重心が低くいが足癖が悪い感じ。これぞまさにラップメタル。
このアルバム自体のセールスが全世界で500万枚以上だったのもあり一躍有名になたのもあり、映画『マトリックス・リローデッド』の主題歌「Sleeping Awake」を担当したりもした。
しかし、2005年の『When Angels & Serpents Dance』位からあまり売れなくなりだして、多少オルタナ感を出すも結局同じところに落ち着いている。
ハワードはこれ以外にも1st『The Fundamental Elements of Southtown』(1999)、3rd『Payable on Death』(2003)、6th『Murdered Love 』、7th『The Awakening』(2005)と6作品でプロデューサーや一部マニピュレーターやキーボードとして参加している。
Daughtry『Daughtry』 (2006)
オーディション番組アメリカンアイドル出身のヴォーカリストChris Daughtryのバンドの1stアルバム。
アメリカンアイドルでもカントリーやロックでも歌い上げるような曲を得意としていたのだが、歌声のカッコよさと歌の上手さはピカイチ。
アルバム全体を通してもアコースティックギターがサウンドの中心となっていたり、あまりアップテンポな曲がないアルバムで、Chris Daughtryのヴォーカルの良さを引き立てるアルバムに仕上がっている。
何故Chris Daughtryがスキンヘッドかというと、ハゲてきたからスキンヘッドにしたらしい。ミュージシャンは見た目も大事だが、歌声の方が大事だよね。
ハワードはこの作品以外にも『Leave This Town 』(2009)、『Break the Spell』(2011)、『 It's Not Over: The Hits So Far』(2016)の新曲2曲と全てのアルバムのプロデュースをしている。
Three Days Grace 『One-X』(2006)
カナダ出身のロックバンドThree Days Graceの2ndアルバム。
1stアルバムはGavin Brownというカナダのミュージシャン兼プロデューサーがプロデュースしてウケたのだが、なぜだか2ndからはハワードがプロデュースしている。
このバンドもハワードが得意なオルタナ系なのだけど、ヴォーカルの声のタイプがDaughtry似ているが、スクリームをするとかなりハスキーになってカッコイイ。
適度にへヴィでキャッチー。やっぱりハワードがプロデュースするとそうなる。
Three Days Graceとしてもこのアルバムが一番売れている。
このアルバムの他に『Never Too Late』(2007)、『Life Starts Now』(2009)のプロデュースをしている。
Three Days Graceは2014年にAdam GontierからMatt walstにヴォーカルが変わっていて、その後の5thアルバム『Human』はプロデューサーをGavin Brownに戻して再出発している。
Mêlée『Devils & Angels』(2007)
アメリカ出身のロックバンドMêlée(メイレイ)のメジャー1stアルバム。
タワレコのイチオシアーティストとしてプッシュしたら、日本で売れちゃった。
そして、1stシングル「Built To Last」には「永遠のハーモニー」という邦題までつけられてしまう始末。
これまでハワードがプロデュースしてきたバンドのサウンドとは異なり、ロックではあるけどピアノが入っていてヴォーカルも爽やか。
本当に爽やかなボーイズロックなのだけど、ハワードがギターがゴリゴリのへヴィなロックばかりをプロデュースしているわけではないのが分かるだろう。
ハワードのプロデュースはこのアルバムだけで、この後に発売した『The Masquerade』(2010)があんまり売れなかった。
今はネットを調べてもオフィシャルHPも閉鎖しているみたいで情報がない。
Theory of a Deadman『Scars & Souvenirs』(2008)
カナダ出身のロックバンドTheory of a Deadmanの3rdアルバム。
2ndアルバムの『Gasoline』以降はすべてハワードのプロデュースとなっている。
このバンド、ハワードお得意のオルタナ感のあるサウンドとキャッチーな楽曲は当然なのだが、どう聴いてもNickelbackそのもの。
ヴォーカルのTyler Connollyの歌声がもうNickelbackのChad Krogerと瓜二つ。
それもそのはずで、Theory of a Deadmanのデビューへと導いたのはNickelbackのChad Kroger。1stアルバムのプロデュースもChadが行っている。
そのせいなのかどうかは分からないが、ハワードのプロデュースとなってもNickelback感が抜けない。
このアルバムに限って言えば、「So Happy」ではShinedownのBrent Smithと、 「By the Way」ではChris Daughtryとコラボしている。
(こういう似た声のヴォーカルがコラボするのを見ると、Bryan AdamsとRod StewartとStingのハスキーヴォイス三銃士がコラボした「All For Love」を思い出してしまうのは自分だけ?)
このアルバム以外に『Gasoline』(2005)、『The Truth Is...』(2011)、『Savages』(2014)と2005年の2ndアルバム以降はすべてハワードがプロデュースしている。
この間もあまり音楽性は変わっておらず、Nickelback感たっぷり。
Orianthi『Believe』(2009)
マイケル・ジャクソン最後のツアーとなった「THIS IS IT」のリード・ギタリストとして有名なオーストラリア出身の女性ギタリストOrianthiのソロアルバム。
マイケル・ジャクソンに見初められた力は大きく、自分で歌ってギターを弾いてアルバムを出したら地元オーストラリアとアメリカで売れたのだ。
Orianthiの魅力は歌声よりもギター。
その腕前で売れてる変態ギタリストSteve Vaiとギター対決してしまうのだから、その度胸ったらない。
よくSteve Vaiとコラボしようなんて思ったもんだ。
その強気な姿勢があったからマイケル・ジャクソンに見初められたのかもしれない。
アルバム自体は歌も入っているのだが、メチャクチャな上手さはなくて普通にCDを出せるレベルなのが残念だが、ギターが上手いだけで十分。
ハワードがプロデュースしている割には、Orianthiの好きそうなハードロックだったりブルースがかったサウンドに仕上がっている。
売れるようにキャッチーさやポップさを足しているのはきっとハワードの仕業だろう。
Halestorm『Halestorm』(2009)
アメリカ出身のヘイル姉弟を中心としたロックバンドの1stアルバム。
ハードロックやメタル感のあるサウンドにちょっと低めのハスキーな女性ヴォーカルという、カッコイイのだけどなかなか出てきても売れないタイプなのだが、このHalestormはキャッチーさを忘れていない。
メタル系の女性ヴォーカルといっても様々なタイプがいるので、興味があれば別記事を参照していただきたい。
ヴォーカルのタイプ的にはPinkに似たパワフルでハリのある歌い方。それにデッドな乾いたバンドサウンドが絡んでいく。
時にメタルのようにリフとバスドラがシンクロするが、メタルほどそれが長く続かないのでハードロックに落ち着く。
そして、オルタナディブに行くにはメロディの暗さがなく、サウンドの広がりやクリーンと歪みを緻密に使った静と動を表現することもない。
そういう意味では正統派なハードロックである。
今までのハワードのプロデュースしてきた作品のオルタナ感が全くなく、楽曲のクレジットにも名前があるので曲作りにも参加しているが今までの作品とは全く異なる。
そう考えると、ハワード・ベンソンはしっかりとアーティストの個性を生かして楽曲制作・プロデュースを行っていることが分かる。
2ndアルバムの『The Strange Case Of...』(2012)までの付き合いで、3rdアルバムは別のプロデューサーに変わっている。
しかし、2016年のEP『Into the Wild Live: Chicago』では再度プロデュースに戻っている。
Kelly Clarkson『All I Ever Wanted』(2009)
アメリカンアイドル出身の歌姫Kelly Clarksonの4thアルバム。
アメリカンアイドル1stシーズンの優勝者で、まさに歌でアメリカンドリームを掴んだ歌手である。
残念ながらハワードはアルバム全てをプロデュースしたわけではなく、14曲中5曲をプロデュースしている。
このアルバムでKelly Clarksonは歌姫からポップスターに変身している。
このポップスター感は全体の楽曲のテンションの高さだったり、今までのアルバムでも数曲あったロックな曲を多めにしたことがある。
しかもこの「I Do Not Hook Up」に関していえば、ソングライティングに旬の
Katy Perryが加わっているのがさらにイケイケ感を押し出している。
アメリカンアイドル出身のアーティストをプロデュースするのはDaughtryでもあったことだが、Daughtryはしっとりと歌わせるのにKelly Clarksonには得意のしっとりとした歌い方をさせずにパワフルに歌わせる。
これもハワードのプロデュースとしてアタリなんじゃないだろうか。
Skillet『Awake』(2009)
アメリカ出身の男女4人組ロックバンドの7thアルバム。
Skilletのキャリアの中では一番売れたアルバムである。
2000年を超えるまでのSkilletはへヴィだけれど、キャッチーさに欠けていた。
それでも徐々に売れていき、2006年の『Comatose』でゴールドディスクを獲得してからのこのアルバムである。
サウンド全体のへヴィさといい、キャッチーさといい過去最高のSkilletとなっている。
へヴィでカッコいいのは当然なのだが、デスヴォイス気味の男性ヴォーカルのJohn Cooperの声とバッキングヴォーカルとしてクリーンな女性ヴォーカルのJen Ledgerが絡むことで、一つ突き抜けた個性を表している。
元々やっていたことはカッコいいし、曲も悪くなかった。
そこをハワードが上手いことプロデュースしたお陰で本来出るべき実力が出たんじゃないかと思うようなアルバムだ。
2013年の『Rise』もプロデュースしており、正直あまり売れなかった。そんなわけで、2016年8月発売予定のアルバムは別なプロデューサーが選ばれている。
Black Stone Cherry『Between the Devil and the Deep Blue Sea』(2011)
アメリカ出身のハードロックバンドの3rdアルバム。
1st、2ndアルバムからアメリカではシルバーディスク認定を受けており、実力のあるバンドである。
そのBlack Stone Cherryが3rdアルバムでも同じ路線ではあるが、1stアルバムの頃の様なベースの効いたミックスになっている。
ギターのサウンドはいわゆるドンシャリにはせず、昔のチューブアンプで歪ませたような荒々しさのある太いサウンドにしあがっており、フレーズはブルースがかっていて70年代のハードロックを思わせるものになっている。
そして、そこにしゃがれたヴォーカルがのるのだから王道のハードロックになるはずである。
もうお得意のオルタナ感が全然感じられなくて、王道なのにも関わらず良いアルバムに仕上げているのは、もちろんプロデューサーの力が少なからずあるはずだ。
このアルバムでもアメリカではシルバーディスク認定を受けているが、ハワードはこの後のアルバムでお声がかかっていない。
Santana『Guitar Heaven』(2010)
メキシコ出身のギタリストCarlos Santanaが中心のバンドの20thアルバム。
スタジオアルバムではあるが、カヴァーアルバムでありコラボアルバムである。
普通のアルバムというよりは名曲達をSantana とフューチャリングアーティストがカヴァーするという作品。
その選曲とアレンジがカッコいいのだ。
参加しているフューチャリングアーティストが豪華で、Chris Cornell、Scott Weiland、Rob Thomas、India Arie、Yo-Yo Ma、Chris Daughtry、Nas、Chester Bennington、Ray Manzarek、Jacoby Shaddix、Pat Monahan、Gavin Rossdale、Joe Cocker、Jonny Lang、Andy Vargasとヴォーカリスト率が高い。
この作品のプロデュースはCarlos SantanaとClive Davisなのだけど、ハワードは楽曲のアレンジやサウンドプロデュースをMatt Serleticと共に務めている。
そういう意味では今までのプロデュース作品とは違い、きっと選曲はCarlos SantanaとClive Davisが行い、アレンジはMatt Serleticとハワードが担当したんだろう。
2002年の『Shaman』でプロデュースしたこともあり、ロックが得意なプロデューサーとしてお呼びがかかったのかもしれない。
最後に
プロデューサーで音楽を見てみることは、自分の好きな音楽へたどり着く方法の一つだと考えている。
自分が音楽を聴き始めた90年代のJ-POPでは小室哲哉や浅倉大介、小林武等有名音楽プロデューサーがいて、その人がプロデュースしたアーティストというのが一つ売れるきっかけだったこともある。
また、意識せず聴いていて気になる音楽のプロデューサーが同じだったことはある。
もちろん、その例としてHoward Bensonを挙げてみた。
正直、Howard Bensonのプロデューサーとしての売れっ子時代は2000年代で、2010年代もプロデュース業は行っているが、その作品がめちゃくちゃ売れたりはしていない。
音楽家には旬があって、それを過ぎると安定期に入ることがあるのだが、プロデューサーもそういうことなのかもしれない。
音楽プロデューサーの影響はなかなか推し量るのが難しいのだが、やはり音楽に関わることで良い影響を与えて良い作品を作り上げるのが仕事なのは確かである。
たまにでよいので、あなたの好きな音楽のプロデューサーが誰なのかということを考えてみることをおススメする。
こちらからは以上です。
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