Jailbreak

新しい世界の切り取り方

音楽のオリジナリティのお話

広告

 

このブログで何度か書いてきていることで、そういえば記事としていなかったことがあります。それが、音楽のオリジナリティの話です。

あくまで、色んな音楽を聴いてきて、現代のポピュラーミュージックにおけるオリジナリティってこういうことじゃないか、という考え方です。

大きく分けると、下記のような感じです。

・オリジナリティは構成要素の組み合わせによって発生する。そして、どこの要素に強くオリジナリティを感じるかは大きい。

・同じアーティストでも、時間の経過とともに作品ごとにオリジナリティが変化していくことがある

・ちょっと聞いてどこか一部が似ているからと言って、オリジナリティがない/パクリとは言えない

 

オリジナリティは構成要素の組み合わせによって発生する。そして、どこの要素に強くオリジナリティを感じるかは大きい

まず、オリジナリティは構成要素の組み合わせによって発生する。そして、どこの要素に強くオリジナリティを感じるかは大きい。ということからです。

音楽の三要素としては、1.メロディー、2.ハーモニー、3.リズムの3要素があげられます。これだけで音楽の骨格となりますが、もう少し細かい分類をすると、①音色、②リズム、③速度(テンポ)、④旋律(メロディ)、⑤テクスチャ、⑥強弱、⑦形式、⑧構成、⑨歌詞くらいまで分ければよいのではないかなと。

音楽的要素は上記ですが、A.ビジュアル(見た目)やB.パフォーマンス(ライブ等)、C.PV等の映像作品、D.アルバムジャケット等のアート作品もそのアーティストのオリジナリティに関わると言っても、差支えがないでしょう。

 

例えば、J-POPの王道を行く、いきものがかりで考えてみると、①音色(歌声)、④旋律、⑨歌詞のオリジナリティと、J-POPらしい②リズム、③速度、⑤テクスチャ、⑥強弱、⑦形式、⑧構成を持っていると思うのです。

さらに例として、「ありがとう」をその視点で見てみましょう。

この曲の分かりやすい特徴としては、サビ頭の⑧構成なわけですが、これはJ-POPの⑦形式の中では王道で、とてもインパクトのある手法です。構成と関連して、Aメロからサビに向けて盛り上がるという⑥強弱があります。③速度(テンポ)としてもゆっくり目ですが、極端ではなく、②リズムとしても4分の4拍子で、8ビートが基本となっています。⑤テクスチャで言うと、サビのメロディに対して、ストリングスやピアノがカウンターメロディ(対旋律)があるところも、こういう音楽としてはありがち。逆にコード進行どおりにコードがベタっと鳴っているだけではないので、楽曲に締まりが出ています。

残りのオリジナリティは、割と分かりやすい。クセこそ少ないけど、その歌声を聴いていきものがかりだと分かる吉岡聖恵の①歌声(音色)があります。歌手や、歌モノのバンドはヴォーカルの歌声や節回しはとてもオリジナリティに関わります。さらに、分かりやすいキャッチーな④旋律(メロディ)は分かりやすいオリジナリティです。歌詞も分かりやすい、内容でメロディと吉岡の歌声と相まって、一度聴けば歌えるレベルのものになっています。簡単そうに見えて、やろうと思うとなかなかできないものになっています。

見た目やパフォーマンスに関わる要素ですが、A.ビジュアルに関しては、めちゃくちゃ特徴があるというよりは、衣装も含めて特別な感じはしません。B.パフォーマンスについても、他のアーティストより優れているということはないですが、ライブで吉岡がかなり元気に動き回ったりします。C.映像作品等として、「ありがとう」に関わらず、めちゃくちゃ話題になるようなものはなく、D.アルバムジャケット等を自分たちで書いたりもしていません。ちなみに、「ありがとう」のジャケットはこんな感じです。

ありがとう

全方面にオリジナリティがあふれているわけではないですが、他と比べて明らかにいきものがかりだと言える、オリジナリティは①音色(歌声)、④旋律、⑨歌詞辺りが強そうです。これは、歌姫系のアーティストも概ね似た様なポイントにオリジナリティが置かれていたりします。

 

未だにカヴァーされる日本のロックだと、X Japanあたりはよく名前があがります。何で楽器が上手い人たちは「紅」をやたらYoutube演奏するのかというと、音楽的な要素としてハードな①音色、細かく刻む②リズム、超ハイテンポ③速度、クラシック譲りの⑧構成あたりは、楽器を演奏する人のテクニックを分かりやすく示すことができるのです。さらに売れた音楽であり、美しい①旋律やド派手なA.ビジュアルという他にも強さを持っているので、とにかくマッチョな音楽と言えます。

 

これに対して、ゴールデンボンバーは、楽曲のオリジナリティもさることながら、A.ビジュアル(見た目)やB.パフォーマンス(ライブ等)、C.PV等の映像作品あたりにオリジナリティがあるアーティストです。キワモノや邪道扱いされがちですが、アーティストのオリジナリティのポイントをズラしているという、上手いやり方とも言えます。

 

こんな風に、音楽の色んな要素に対して、強いところ・弱いところを持っていて、その要素数が多ければ、多いほどそのアーティストのオリジナリティが強くなっていく傾向があります。さらに、オリジナリティが強いところが、そのアーティストだと認識できる大事な要素になるということが、言えると思います。

極論ですが、その人が作った音楽や歌ったり演奏した音楽であるということが、オリジナリティだと言っても良いと思います。だからこそ、音楽の著作権は重要で、明らかに盗んだ作品はマズイわけです。

 

同じアーティストでも、時間の経過とともに作品ごとにオリジナリティが変化していくことがある

音楽歴が長ければ長いほど、その中で音楽性が変化していくことはあります。もちろん、首尾一貫音楽性が変わらないアーティストもいますが、オリジナリティに関わる部分が変わってしまうことはあります。

初期で売れた曲のイメージがついて、その後の作品でオリジナリティが大爆発するようなパターンとしては、イギリスのロックバンドRadioheadあたりが思い浮かびます。1stアルバム『Pablo Honey』収録の「Creep」はオルタナティブロックの代表格と言われるくらい大ヒットしました。

歌詞こそ放送禁止用語が使われていたりして、決して綺麗なものではないのですが、内向的な内容と、スローテンポに浮遊感のある静と壊れたような動が共存するなんともエモい楽曲です。2ndアルバム『The Bends』までは、この傾向から大きく外れず、良い作品を残してくれています。

3rdアルバム『OK Computer』くらいから、ソリッドなロックは聴けなくなり、 4thアルバム『Kid A』では多くの曲がエレクトロニカを大フューチャーした音楽性に変わっていきます。5thアルバム『Amnesiac』くらいになってくると、インストも多いわ、リズミカルですらなくなったりするので、ちょっと不安になるレベルになっていきます。

音楽の質が下がったわけでは決してないんですが、とにかく傾向が変わって、あの「Creep」のような曲は今後生まれなさそうな感じはします。ヴォーカルのThom Yorkeの歌声自体はほとんど変わっていないのですが、⑤テクスチャ、⑥強弱、⑦形式、⑧構成が変わってしまって、ジャンルまで変化してしまった例です。これ、そもそもバンドの形式である必要があるんだろうか?とさえ、思ってしまう変化です。

こういうパターンもあって、同じアーティストでもオリジナリティが変化してしまうことがあるのです。そのため、「あの時のあの作品と同じような楽曲を新曲で聴きたい」と思ってもなかなか難しいことだったりします。

 

ちょっと聞いてどこか一部が似ているからと言って、オリジナリティがない/パクリとは言えない

別なアーティストと似ていることは、そのアーティストのオリジナリティを損なうとはならないと考えています。 先述のオリジナルの要素は構成要素の組み合わせであると書いた通りで、その中でオリジナリティが発生します。

ただし、著作権的な視点としては、楽曲に関しての裁判の結果は有名なものが2つあります。

ワン・レイニーナイト・イン・トーキョー事件 - Wikipedia

記念樹事件 - Wikipedia

ポイントとしては①楽理的な同一性(定量的な類似性)と、②依拠性(既存楽曲を元ネタにしていない) という部分で、ちょっと音楽を聴いて「あの曲をパクってる!」と簡単に言えるものではありません。

他にもORANGE RANGEの「ロコローション」が「The Loco-Motion」を作曲したCarole King側から抗議があり、作詞作曲が原曲になったケースがあります。こうやって楽曲の権利を持つ人や団体が、正式に抗議するようなケースもあり、そこにあるのは今まで扱ってきたオリジナリティとは違って、先行者利益のお話なので、悪しからず。

 

そこで、「あの曲と似ている!」と思った時、せっかくなので楽曲を分析して欲しいのです。メロディラインが似ているのか、歌詞のテーマが似ているのか、音楽の構成が似ているのか、コード進行が同じなのか…そうやって、具体的にどこがどう似ているのかを知ることは、音楽をよく知ることの第一歩だったりします。

自分が好きな楽曲を分析していくと、ある程度の傾向が出てきたりします。好きな楽曲はテンポが似ていたり、ヴォーカルの歌声はしゃがれ声が好きだったり、ベースが歪んでいる楽曲が好きだったりと、似ているを自分の好きな方向性の確認の手段にしていくのが、音楽を楽しんでいく方法だと思います。

そういった要素が似ていて、同じ雰囲気を楽しみたい時にオススメできるなと考えてまとめた記事もあります。

 

 そうやって、知っている音楽を増やして、好きな音楽を新たに広げていく手段にしていくのがよいのではないでしょうか。

 

最後に

音楽アーティストが持つオリジナリティについて、自分の考えをまとめてみました。

要素を挙げればキリがないんですが、オリジナリティを表そうとすると、多視点で分析してみることが必要だと思います。また、オリジナリティが強ければ強いほど、聴きにくい音楽になりがちで、オリジナリティが弱いと他のアーティストと差別化ができず、ありがちな音楽になってしまいます。その辺のバランス感覚がさらに大事なのかなとも考えています。

 

こちらからは、以上です。