日本人が海外のアーティストをカヴァーすることは珍しくない。日本の音楽ばかりでなく、洋楽に影響を受けることなんてよくあることだ。しかし、海外アーティストが日本語の曲をカヴァーしてくれるのはあまり出会うことがない。だからこそ、日本の歌を歌ってくれるのは嬉しい。日本には独特の文化や言葉があり、それをビジネス的になのか音楽的になのか良いと思って受け入れてもらえていると、勝手に思ってしまう。テレビでもそんな日本の歌を歌ってくれる外国人ばかり出る番組があるくらいだ。
それはそれとして、たまにカヴァーであれ?みたいに思う曲があって。曲調であったり、日本語の発音であったり等色々ツッコミどころがあって。そんな曲を紹介してみたいと思う。
「アンパンマンの歌(Anpan Man)」/Snuff
日本の曲を喜んでカヴァーしてくれるイギリスのパンクバンドSnuff。どこでどう選曲しているのかわからないけど、カヴァーする曲はとにかく一貫性がなく良くも悪くもグチャグチャ。美空ひばりの「真っ赤な太陽」をカヴァーしたかと思ったら、「だんご三兄弟」をカヴァーし、岡本真夜の「Tomorrow」、「にんげんていいな」と売れた日本語の曲ということ以外に共通点がない。
そんな中でも一番のツッコミどころは「アンパンマンの歌(Anpan Man)」だ。Snuffはパンクバンドなのもあり、ガナって歌うのが通常営業である。そうすると、サウンドには合うのだがアンパンマンの正義の味方のイメージとは逆になってしまう。むしろ、ばいきんまん側のアンパンマンの歌になっている始末。そう思うとなかなか味わい深い音楽になるから不思議なものだ。
お陰で小学生のテンションを上げてくれたことはあるから、全て悪いとは言い切れない。
「ドラえもんのうた」/Scott Murphy
アメリカのパンクバンドALLiSTERのヴォーカル&ベースのScott Murphy。2007年に活動休止をしてからソロ活動を開始したが、WeezerのRivers Cuomo*1とスコット&リバースとしてユニットを組んでみたり、the HIATUSやELLEGARDENの細美武士の新しいバンドMONOEYESに参加と日本での活動が中心になっている。
Snuff同様、選曲のセンスが良くわからないが日本語曲のカヴァーが多数ある。今回紹介する「ドラえもんのうた」は『GUILTY PLEASURES ANIMATION』に収録されており、アニメの曲ばかりカヴァーしている。アレンジの基本線は原曲を守りつつ、サウンドはポップ・ロックに寄せている。
この「ドラえもんのうた」は元々が若干コミックソングの側面を持っている。歌詞の分かりやすさ故に気を抜くと本当におバカに思えるのだ。それを能天気にポップに仕上げてしまったからいい感じのおバカソングになっている。やっちゃいけない組み合わせじゃねえか!
「ウルトラセブンの歌」/Sepultura
ブラジルのメタルバンドSepultura。カヴァレラ兄弟がいたのは2006年までで、もう全然別のバンドになってしまっているので、昔のSepulturaのイメージを持ったままだと違和感があるかもしれない。2015年までに全世界で2,000万枚を売っており、全世界的なビックアーティストである。
そんな彼らがやらかしてくれた。2017年1月13日発表の17thアルバム『Machine Messiah』で「ウルトラセブンの歌」をカヴァーしているが、これがツッコミどころ満載。何でまた「初代ウルトラマンの歌」でもなく「ウルトラセブンの歌」なんだ?それより、何でこの曲選んだのよ?と。このアルバムの中でヴォーカルのDerrick Greenは見事なデス声をかましてくれているのだが、この曲だけはちゃんと(?)歌おうとしてしまっている。カヴァーは十分個性的だが、本来の個性を殺しちゃイカン。
そして、何でこんな曲の為にカラオケ作ったの?と言いたくてたまらない。
「飛べガンダム(Take Flight Gundam)」/Richie Kotzen
流浪の天才イケメンギタリストRichie Kotzen。脱退したギタリストの後釜を任せても難なくこなしてしまうし、何ならいい曲を書いてしまう最高の助っ人。問題は移り気が激しいことくらいで(致命的)。
そんなリッチーが何を血迷ったか、機動戦士ガンダムのカヴァーアルバムを発表している。最近のアニメならまだしも、初代ガンダムとはなかなかハードルが高いことに挑戦して見事にコケてくれている。原曲を割とそのまま自由にやってくれているのだが、何ともダサい。「哀戦士」はまだ良かったが、「飛べガンダム」が特にヒドイ。本当はこんなストレートなロックは得意じゃないはずなのに…ギターソロを弾きまくっているのが逆にイタい。
これもそうだが、Andrew W.K.もなかなかやらかしているので、こちらも要チェック。どちらも英歌詞のはずなのに、リッチーの歌詞とは異なっているのもポイント。
「宇宙戦艦ヤマト」/ANIMETAL USA
ANIMETAL USAを語るには本家本元のメタルでアニソンをカヴァーするアニメタルがいることが必要だ。しかし、メタル調でアニソンをカヴァーするというコンセプト以外はあまり関係がない。別にメタルでカヴァーすればいつもカッコイイ訳ではないし、むしろむむむ?と思うアレンジがされることもある。
そんなアニメタルのコンセプトを引き継いだ(?) ANIMETAL USA。メンバーを見て思ったのは、何しとんねんChris Impellitteri!その他のメンバーもそれなりに豪華ではあるのだが、あの世界最速のギタリストがギターを弾いてるなんて!!!
さらに、「宇宙戦艦ヤマト」は基本英歌詞で進むのだが、キメの宇宙戦艦や~ま~と~の部分だけ日本語になる。仕方ない部分もあるのだが、ここだけ日本語だとやっぱり浮く。日本語カヴァーの難しさが出た曲になっている。
「Hero」/Me First And The Gimme Gimmes
パンクでカヴァーすることがコンセプトのバンドMe First and The Gimme Gimmes。パンクでカヴァーしても、やっぱり名曲は名曲だと教えてくれるいい指標にもなる。毎回コンセプトの異なるカヴァーアルバムを出すので、とても楽しみなバンドだ。
そんなギミギミーズが日本語の曲をカヴァーした『Sing in Japanese』というアルバムがあって、これがなかなか面白い。全部日本語歌詞で歌いぬいてくれているのだが、日本語の曲中にも英歌詞が出てきて、これが笑える。山本高広がケイン・コスギのモノマネをするときに最後の最後だけ発音が良いというネタと同じ。が、しかし、この曲は全然英語の発音が良くない。良く考えてみたら元々ガナって歌っていて、そんなに滑らかな英語で歌っていないのだ。勝手に期待して勝手に裏切られた気分になるパターン。
「Automatic」/Dirty Loops
スウェーデンの3人組Dirty Loops。3人ともスウェーデン王立音楽アカデミー出身の音楽エリート。音楽の才能全開でJazz/Fusion、Funk、Gospel、Electronicaを昇華したバキバキのキメが入るマッチョな音楽が最高にカッコいい。
YouTubeにカヴァー曲をアップして一気に知名度を上げていて、その中に宇多田ヒカルの「Automatic」がある。原曲はR&Bでユル目で軽めにハネたリズムで軽快に進むのだが、Dirty Loopsがカヴァーするとバキバキの曲に仕上がっている。リズムはクイまくり、シンコペーション多数でリズムはしっかりして、音色も固い。キレッキレの「Automatic」ってどういうこと?カッコイイからいいけれど、やりすぎ禁物。
「紅(Kurenai)」/SHAMAN
SHAMANはブラジルのメタルバンド。元ANGRAのメンバーが3名参加し、またメタル全開な音楽性だろうなと思ったら、その通りだった。その後、ドラムしか残らないという状況だったりするのだが、それは本件とは関係ない。
SHAMANがカヴァーして見せたのは、ジャパメタの名曲X Japanの「紅」。そう、ロックのドラムを叩くとかツーバスを踏むと言うと必ず「紅叩ける?」と訊かれる、あの「紅」だ。
さて、ツッコミどころはどこでしょうか。日本語歌詞の発音?違います。半端な英歌詞?違います、全部オリジナル通りです。選曲のセンス?違います、メタルバンドがメタルをコピーするのは土俵として正しい。
じゃあ、何がツッコミどころかって、本家本元よりも演奏が上手いんだよ!誤解しないでいただきたいのは、X Japanの演奏が下手とかそういうことを言っているわけではない。原曲には原曲にしかない粗さやグルーヴがあるのだ。しかし、それをテクニックで上回り、さらに正確にコピーし、ソロが回転数を上げて弾きまくる。こういうことをされると2000年代のメタルプレイヤーのレベルと比べて、YOSHIKIのドラムがどれ位かとか、HIDEやPATAがどんなもんか無駄に比較してしまう。演奏の上手さだけが大事なことじゃないと教えてくれる曲だ。
「Rusty Nail」/Dragonland
スウェーデンのメタルバンドDragonland。北欧メタルの代表的なバンドで、アルバムに収録されるカヴァーが秀逸なので、オリジナル曲よりもカヴァーをとりあえず聴きたくなってしまう。
そして、DragonlandがカヴァーしたのはX Japanの「Rusty Nail」。いいっすね、日本語曲の中でもかなりハードな部類に入る名曲を選ぶセンス。ちゃんと自分たちの土俵で相撲をとっている。ま、これも演奏が本家より上手いってのがツッコミどころだし、サビの”どれだけ 涙を流せば”が”どれだけ涙をながれば”と言っていたりと細かいところも含めて色々ある。だが、今回は何で2音半も下げてカヴァーした?とツッコミたい。いや、海外アーティストが自分たちのオリジナル曲でも音を下げるし、音が合わなければ下げるのは良いが、2音半も下げると曲が余計にへヴィに聴こえるじゃないか。ヴォーカルのJonas Heidgertの声が出ていないとは思わないし、案外原曲の美しさを失っていないが普通のカラオケになっちゃってるじゃないか!TOSHIのハイトーンヴォイスはスゴイということが分かる。
「天城越え」/Marty Friedman
元Megadethのギタリストの肩書を持つアメリカ出身のギタリスト、Marty Friedman。日本語をバリバリ話し、J-POPが大好きでアメリカの音楽との対比を語らせたら右に出る者はいない。そんなキャラもあってバラエティ番組でも見かけることがあるだろう。Martyの本職であるギターは、Megadeth時代から独特の節回しやチョーキング、ビブラート、逆アングルのピッキングによるスタイルから放たれる演歌を思わせるソロが特徴。
日本大好きMarty Friedmanが日本の曲をカヴァーしたのが『TOKYO JUKEBOX』というアルバムだったわけだが、このアルバムが全編ギターソロになっている。選曲はまあまあとして、ギターソロだけでアルバムを構成するのはとても難易度が高い。それでも、本職であるのと日本の名曲が収録されることで何とか打ち消そうということなんだろう。だからといって、よくも「天城越え」をカヴァーしたもんだなと。しかも、適宜メタル風にしてあるのに節回しは演歌風。というより、Marty節。
Marty Friedman、やっぱりオマエさん、日本人だろ?
最後に
ツッコミを入れてみたが、どの曲も面白いし原曲も好きな曲ばかりだ。そして、このツッコミどころがないと逆に面白くないので、また聴こうと思わないのも事実。正統派でカヴァーしすぎてもダメだし、アレンジしずぎても合わないこともあるし、何もしないとコピーになってしまう。どれだけアーティストの色を出して、どれだけ原曲の良い部分を残すかというバランス感覚が問われて、アーティストが売れるかどうかと直結する。結局、良いカヴァーをできるといいアーティストであるのは間違いない。だからといってオリジナルが必ず売れるとも限らないので、音楽の世界は厳しい。
こちらからは以上です。
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*1:ちなみに奥様が日本人