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原曲を超えた!?名カヴァー~邦楽・日本人アーティスト編35選~

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カヴァーはオリジナルを超えない。これが定説だとは思うが、例外が起こることはある。そんな考えから前回は海外アーティストによるオリジナルを超えたかもしれないカヴァー曲を紹介した。

今回はその日本人アーティストによるカヴァー曲を紹介する。前回同様原曲にはYoutubeのリンクを張るので適宜ご参照いただきたい。

目次

「Funny Bunny」/ELLEGARDEN

原曲はthe pillows。the pillowsの反骨精神が上手いこと表現されている曲の1つで、まず聴くのをオススメする曲でもある。原曲では割とポップなロックで、ヴァースが裏打ちコーラスが8ビート、ギターもベースも軽めのサウンドでとにかく軽快である。

そんな楽曲をカヴァーしたのはELLEGARDEN。彼らの得意なメロコア風のアレンジとへヴィなサウンドに変更しただけで、ここまでカッコよくなるか!?と思うくらいソリッドに仕上がっている。原曲の反骨精神がしっかり生きていて、歌詞の重さとロックさにサウンドを合わせるとこうも極太の楽曲になるもんかと感心させられる。もちろん、原曲は歌詞の重さに対して、あえて重さを出さないバランスをとった状態ではあるので、このバランス感覚の好き嫌いはあるかもしれない。

「浪漫飛行」/HALCALI

浪漫飛行

浪漫飛行

  • HALCALI
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲は米米CLUB。170万枚を売り上げているヒット曲で、米米CLUBの代表曲の一つといっても過言ではない楽曲である。原曲ではシンセベースを中心として、80年代のMTVっぽいポップなアレンジに仕上がっている。案外淡々と曲が進んでいって、大所帯バンドの力をあえて使っていない感は否めない。

そんな90年代の始まりの名曲をカヴァーしたのはHALCALI。アレンジを大胆にスカ調にし、若干のテンポアップを行った上、バックバンドにはYOUR SONG IS GOODを従えてとにかく明るく歌って踊る。原曲では割と落ち着いた大人の旅の雰囲気だったのに、一気にワクワクとした旅の気分を後押ししてくれるような雰囲気に変化している。軽めのアレンジになることで、楽曲の色を一気に変化させ新しい面を引き出している。

「My First Kiss」/Hi-STANDARD

MY FIRST KISS

MY FIRST KISS

  • HI-STANDARD
  • オルタナティブ
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

原曲はあんしんパパで、アニメ『キテレツ大百科』のオープニングテーマ・エンディングテーマとして使われているいわゆるアニソン。独特の歌声はテープを半分のスピードにして歌い、再生時は通常の再生スピードにすることによるものである。

これをカヴァーしたのは日本のメロコア界の伝説Hi-STANDARD。歌詞を英歌詞にし、自分たちが得意なメロコアにアレンジして歌っている。このカヴァーのスゴさは2000年にアニソンのカヴァーをしたこと、英歌詞にして歌ったこと。今となっては当たり前のことになっていて、アニソンのカヴァーも英歌詞のカヴァーもたくさん溢れているが、当時はそんなにたくさんはなかった。あったとしても、これほど有名になっていない。

Rasmus FaberのJazzカヴァーもなかなか良いので、こちらもオススメだ。

「ストレンジカメレオン」/Mr.Children

原曲はthe pillows。これまたthe pillowsらしいひねくれもので外れモノの歌詞をちょっとハネた緩めのテンポで歌い上げる曲だ。これもthe pillowsの隠れた名曲だ。

この曲をカヴァーしたのはMr.Children。活動歴やデビュー時期が近いのもあり、親交があるバンドである。ミスチルのカヴァーは鍵盤が入り、ギターはあまりコードを弾きならすことはしない原曲とは全く異なるアレンジ。テンポも若干早くなり、ノリもハネずにイーブンに。曲の雰囲気こそ変わってはいるが、その歌の内容と桜井和寿がの熱さと失わないエモい歌い方がこれはこれでなかなかいい。曲自体の良さとミスチルらしいちょっとポップなロックが熱さを残しながら爽やかな印象に仕上がっている。

「つよがり」/the pillows

つよがり

つよがり

  • the pillows
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はMr.Children。9thアルバム『Q』の中でもピアノとストリングスを組み合わせた優しい始まりからバンドサウンドが加わってダイナミックなサウンドまで幅広く、とても壮大な仕上がりになっている。歌詞も男目線のちょっとズルくも甘い自分勝手な優しさがある独特の桜井和寿ワールドが広がっている。シングルではないアルバムの1曲にも関わらず、ベスト盤『Mr.Children 1996-2000』に収録されている点からも、この曲が隠れた名曲であることは明白だ。

これをカヴァーしたのがthe pillows。そう、彼らの楽曲「ストレンジカメレオン」をカヴァーされたのに対しての彼らからのアンサーだ。鍵盤はサビで若干オルガンが入る程度で基本はギター・ベース・ドラムといういつもの構成。ちょっとテンポは上がりつつ、原曲でピアノが弾いているようなオブリガードをギターでそれらしく弾いている。原曲がいいのは間違いないのだが、歌う人が変わってロックバンドがソリッドなギターで演奏すると、しっとりとした壮大なバラードがパワフルな熱いバラードに変わるもんかと思わざるを得ない。ミスチルがロックバンドではないのと、the pillowsがロックバンドであるのを上手いこと対比させて明確にしてくれるいい曲である。

「抱きしめたい」/Smooth Ace

抱きしめたい

抱きしめたい

  • SMOOTH ACE
  • ポップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はMr.Children。ミスチル初期の名バラードで2枚目のシングルでもある。あまり多くの言葉が必要ないくらいスタンダードになっていて、今でもライブのセットリストに名を連ねている。

この名曲をコーラスグループSMOOTH ACEがカヴァーすると原曲とは全く別の世界が広がる。男女2名ずつの声の重なりであったり、女性リードヴォーカルによる楽曲の表情の変化と、一時期流行ったハモネプのようなハモリとは異なるピアノがしっかりと地盤を固めた上でのポイントをおさえたコーラスワーク。音の数や厚みでは原曲に負けるが、音が多ければ価値が上がるかと言えば一概に言えず、音が少ないからこその価値もあるのだ。そして、男性ヴォーカル曲を女性ヴォーカルが歌うことの価値は大きい。楽曲によって男性的な面・女性的な面があって、元々桜井和寿の作品だがそれを女性が歌うことによって歌詞の別の面が見えてくる。同じ優しさでも男性的な優しさと女性的な優しさが違って伝わってくるのだ。

「HOTARU NO HIKARI featuring AIR」/SNAIL RAMP

HOTARU NO HIKARI feat. AIR

HOTARU NO HIKARI feat. AIR

  • SNAIL RAMP
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 原曲はスコットランド民謡の「Auld Lang Syne」。日本では「蛍の光」として親しまれており、閉店時に流れる等別れや帰りをイメージさせる曲になっている。

この曲をメロコアバンドSNAIL RAMPがカヴァーすると、しっかりメロコアに仕上がる。前半こそ英歌詞だが、リズムも雰囲気も変わって日本語の歌詞になるとまた展開を続けるところがただのメロコア風カヴァーと違う点。シンプルな楽曲に対して展開を続けていくことで飽きさせず、楽曲の新しい良さを引き出した良いカヴァーではないだろうか。

「Rock And Roll Hoochie Koo」/Superfly

Rock and Roll Hoochie Koo

Rock and Roll Hoochie Koo

  • Superfly
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はRick Derringer。シンプルなコード進行とリフでできていて、ミドルテンポでとてもカッコイイロックンロールだ。サウンド的にはどうしても70年代の楽曲らしく、ギターが歪んでいても音が細いが、その分ベースが太さを補っていて、手数の多いドラムは40年以上経過しても十分すぎるくらいのものだ。

これをカヴァーしたのがSuperfly。ヴォーカル越智志保は70年代のヒッピー風のファッションをしたり、バンドサウンド自体も70年代を意識したものが多い。この曲については何度も当ブログで書いているので、そちらをご参照いただきたい。

「グッド・バイ・マイラブ」/TIARA

グッド・バイ・マイ・ラブ

グッド・バイ・マイ・ラブ

  • Tiara
  • 歌謡曲
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はアン・ルイス。アイドル歌謡と呼ばれ、1974年にヒットした楽曲。日本の歌謡曲らしいほどよい哀愁のある色恋モノの歌詞とアン・ルイスのノビのある歌声が心地よい名曲。

これをカヴァーしたのはシンガーソングライターのTIARA。元々女性らしい可愛らしい歌詞と楽曲が売りのアーティストが、カヴァーアルバム『Lady ~ Tiara Love Song Covers~』では昭和歌謡をカヴァーし、大人の女性の歌を歌い上げて見せた。このアルバムが全体的にTIARAの声と合っていてとてもいいアルバムなのだが、特に「グッド・バイ・マイラブ」が良い。余計な力が抜けていて、ちょっと切なそうな吐息が聴こえるなんとも切ない歌声。アレンジも小さい箱のジャズバンドくらいの想定で、少な目の音と楽器は適度に重なって昭和感をさらに強めている。TIARAの新しい良い面が現れた名カヴァーである。 

「赤い糸」/新垣結衣

赤い糸

赤い糸

  • 新垣結衣
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はコブクロ。片思いと両想いを行ったり来たりする甘酸っぱいが上手くいかない青臭い恋愛を歌った名曲。歌詞の目線は男性目線で、10代の恋愛観のどこかには当てはまりそうな上手いところをついている。

この曲のカヴァーをしたのは女優新垣結衣。男性目線の楽曲を女性が歌うことにまた別の面が出てくるのは確かで、この楽曲もそういうことが起こっている。それよりもなによりも、歌詞の青さとガッキーの天使の歌声のマッチ度が半端じゃない。若さからくる青さを増長させる歌声をガッキーは持っており、この威力ったらない。

「切手のないおくりもの」/WANIMA

切手のないおくりもの

切手のないおくりもの

  • WANIMA
  • ロック
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

原曲はペギー葉山。作詞作曲はチューリップの財津和夫で、セルフカヴァーもしている。チューリップはロックでもフォークでもないニューミュージックの草分け的存在である。

この曲をカヴァーしたのは2016年一気にブレイクを果たしたスリーピースバンドWANIMA。WANIMA自身はメロコア、スカ、レゲエをミックスしたロックサウンドとヴォーカル&ベースのKENTAの突き抜けるような高音と心に刺さる歌詞が売りのバンドである。メロコアがベースにある為キャッチーな音楽はお手の物で、明るくアップテンポに仕上げられたロックサウンドが気持ちいい。嬉しい気持ちを全身全霊を込めて歌うこの曲もなかなかいい。原曲の優しさを失わずにワクワク感や高揚感を与えているこのカヴァーは間違いなく名カヴァー。

「愛しさと切なさと心強さと」/華原朋美

恋しさと せつなさと 心強さと

恋しさと せつなさと 心強さと

  • 華原朋美
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲は篠原涼子 with t.komuro。篠原涼子が小室哲哉プロデュースで発表した4枚目のシングル。売上200万枚、日本レコード大賞優秀賞、第9回日本ゴールドディスク大賞 ベスト5・シングル賞と数々の賞を受賞している。また、東映系映画『ストリートファイターII MOVIE』の挿入歌でもある。

華原朋美のカヴァーは原曲のシンセで作りこまれたサウンドではなく、生バンドによるロックサウンドに路線変更されている。このアレンジが細かく作りこまれており、とても良い。一番の聴きどころはロックサンドと華原朋美のキツめの高音がマッチしている冒頭のサビ。場合によってはちょっとピーキーで耳につく歌声だが、パワフルなロックサウンドの中だとこれくらい突き抜けるような歌声の方が映えるのだ。

「いつまでも変わらぬ愛を」/コブクロ

いつまでも変わらぬ愛を

いつまでも変わらぬ愛を

  • コブクロ
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 原曲は織田哲郎。織田哲郎と言えばシンガーソングライターであり、音楽プロデューサーとしても有名。音楽レーベルビーイングの創立に関わり、1990年代のヒット曲を量産した名プロデューサーである。大塚製薬ポカリスエットCMソングとしてタイアップしており、とても爽やかなサウンドに仕上がっている。

これをカヴァーしたのはコブクロ。元々織田哲郎の甘くて太い歌声と黒田の声が割と近いので、そんなに違和感がなく聴くことができる。さらにバンドサウンドで仕上げ、原曲の持つキラキラ感をアップデート。原曲の良さを殺すことなく、サウンドを最新化したパターンのカヴァーだ。

「私生活」/柴咲コウ

私生活

私生活

  • 柴咲コウ
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 原曲は東京事変。3枚目のアルバム『娯楽(バラエティ)』に収録されており、作詞は椎名林檎、作曲が亀田誠二で、このアルバムで唯一亀田誠二が作曲した曲である。椎名林檎が歌詞に専念し、作曲を完全に移譲した珍しい作り方をしたアルバムでもある。

カヴァーをしたのは女優柴咲コウ。福山雅治とコラボして歌を出したりと、女優業以外にも音楽活動を行っている。柴咲コウの歌声はとてもフラットで透明に近い。

このアルバムの中でも「私生活」を選曲したセンスと、椎名林檎のエグい歌に対して柴咲コウの透明な歌声の対比とアレンジのシンプルさによって、「私生活」の持つ生活感がとても自然で普遍的なものに変わってる。楽曲の多面性として原曲と共に価値があるカヴァーに仕上がっている。

「青春の影」/柴田淳

青春の影

青春の影

  • 柴田 淳
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はチューリップ。財津和夫の補足優しい声とピアノから始まるバラード。人の成長していく姿と僕と君の関係が変わっていくターニングポイントを歌った名曲。

この曲をカヴァーしたのはシンガーソングライター柴田淳。決してパワフルではないが通る歌声と、繊細な歌詞を書くのが魅力である。彼女の歌声とこの楽曲とがとてもマッチしており、原曲の財津和夫の声をさらに繊細に磨き上げたような歌声が良いのだ。歌詞の目線こそ男性目線だが、一人称を僕ではない女性が使う一人称にしても十分理解ができる歌詞の内容であるため、違う目線になってとても良い。

 

「366日」/清水翔太

366日

366日

  • 清水 翔太 feat.仲宗根 泉(HY)
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はHY。HYはギター&ヴォーカルの新里英之とキーボード&ヴォーカルの仲宗根泉の2人がツインヴォーカルを務める珍しいバンド。「366日」は仲宗根泉がヴォーカルを務める女性ヴォーカル曲。女心を熱く歌わせたら、仲宗根泉レベルの歌手はなかなか見つからない。

これをカヴァーしたのは清水翔太。ご本人とコラボしてはいるが、メインはあくまでも清水翔太。歌の上手さもさることながら、このカヴァーの価値は歌声と歌い方の差。原曲では仲宗根泉が120%のフルパワーで歌い上げる真夏の熱帯夜の様な湿度と暑苦しさがあって、それがまた良さでもある。一方、清水翔太は夏の終わりの切なさとちょっとした涼しさと、それでもまだ残る熱さみたいなものがあって、ちょっと季節感が違う。別れた恋人を想う気持ちはどちらのパターンもあって、歌詞もどちらにも当てはまるので、恋の冷め方と気持ちの熱さの残り方の違いで聴き分けてもいい。

「幸せな結末」/鈴木雅之 with 松たかこ

幸せな結末 with 松 たか子

幸せな結末 with 松 たか子

  • 鈴木 雅之
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲は大瀧詠一。1997年発売で大瀧詠一のキャリアの中では新しい方に当たる作品。ドラマ『ラブジェネレーション』の主題歌として作成された楽曲。男性目線の歌詞で2人のラブストーリーを甘く豊かな表現で多くを語らずに2人の雰囲気を表す行間を読む必要がある歌詞だ。

この楽曲を男女デュエットでカヴァーしたのが鈴木雅之と松たか子。 この時、松たか子は映画『アナと雪の女王』で声優を務めて主題歌も大ヒットした後。この旬な時期のカヴァー&デュエット。このカヴァーの良さは旬な松たか子と、男女デュエットにしたことで原曲にはない女性感が入ったこと。もちろん、男性目線の曲を女性が歌うこともそうだが、言葉が女性の言葉のように聴こえてきてまた世界が広がる。鈴木雅之との故歌声が重なる時、新しい価値が生まれた。

「本当の恋」/つるの剛士

本当の恋(カバー)

本当の恋(カバー)

  • つるの剛士
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はMay.J。「本当の恋」というタイトルではあるが最後の恋も歌っていて、この人と見定めた心に決めた人について歌っている。May.Jはカラオケの女王のイメージと「Let It Go」を歌っているイメージが強いかもしれないが、自分の持ち歌もしっかりとした楽曲が多く、この曲が代表曲の1つと言っても過言ではない。

この楽曲をカヴァーしたのはつるの剛士。タレントとしてイメージが強いが、歌うま芸能人の中でも群を抜いて熱い歌を歌う。この熱さを生かすにはバラードが最適でPRINCESS PRINCESSの「M」辺りは名カバーだが、この曲のカヴァーは知名度が高かろうが低かろうがいい曲を熱く歌うことで価値を出している点だ。楽曲の一途さとつるのの熱い歌声がとてもよく絡み合った作品に仕上がっている。

「瑠璃色の地球」/手嶌葵

原曲は松田聖子。松本隆の壮大な歌詞と松田聖子の歌とがベストマッチした楽曲の一つ。あくまでアルバムの1曲だが、松田聖子の楽曲の中でも人気が高い楽曲である。

これをカヴァーしたのは手嶌葵。彼女の最高のウィスパーボイスは松田聖子のしっかり当てにいく歌声とは対局にあるような歌なのだが、小さなものが大きなものを歌う価値を生み出しており、楽曲に新たな見方ができる。人間は地球や宇宙と比べると小さいもので、その人間がこの世界を歌うことの対比がとても良いのだ。 

「DESPERADO」/平井堅

DESPERADO

DESPERADO

  • 平井 堅
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はアメリカのバンドThe Eagles。邦題は「ならず物」。西海岸のカントリーロックを発展させたバンドであり、ドラムが歌うバンドでもある。代表曲の1つであるこの曲は誰かのことを気にかけて、ちょっとセンチメンタルに抒情的に歌い上げる目イバラードだ。

この曲のカヴァーをしたのは平井堅。原曲のDonald Henleyも太い歌声ではなく、甲高くもなく、中庸をいっている。それが平井堅の高いウィスパーボイスで表現されることによって、センチメンタルな雰囲気が一気に増す。この曲のメインは切なさなのだ。その要素を増長させたことにこのカヴァーの価値がある。

「幸せになりたい」/Ms.OOJA

幸せになりたい

幸せになりたい

  • Ms.OOJA
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲は女優としても活動する内田有紀。90年代にはシングルを10枚発売しており、この曲は5枚目のシングルであり、TBSドラマ『キャンパスノート』の主題歌。作詞作曲は広瀬香美。広瀬香美らしい女性目線の恋愛を歌った楽曲だ。

この楽曲をカヴァーしたMs.OOJAはたくさんの楽曲をカヴァーしており、2017年までに5枚のカヴァーアルバムを発売している。その中でもシンプルなアコースティックバンドアレンジがされたこの曲が最高。内田有紀の歌声もクセがなく素直なものなのだが、原曲がプロヴォーカリストが歌ったものかといえばそうでもない。そこをMs.OOJAが本物の歌でカヴァーしたことに価値があり、表現力に大きな差がある。アレンジがシンプルなのもあって、その歌声の素晴らしさが明確になっている楽曲である。

「歌うたいのバラッド」/Bank Band

原曲は斉藤和義。1997年に発売された楽曲で、歌うたいが愛してると伝えたくて歌っているということを歌ったバラード。斉藤和義はミュージシャンのためのミュージシャンみたいな側面があって、一般のリスナーに向けてはちょっとウケないことを90年代にやっていたこともある。

この楽曲を10年以上の時を超えてBank Bandがカヴァーすることによって、この曲の価値が再発見された。元々どんなにいい曲であっても、世の中に広く露出しないと認知されない。それを行ったのがBank Bandなのだ。カヴァー自体も楽器が増えて少しポップにはなっているが、歌を原曲の雰囲気を大きく変えることはなく、桜井節にするでもなく本当にストレートに仕上がっている。

「飾りじゃないのよ涙は」/Go!Go!7188

飾りじゃないのよ涙は

飾りじゃないのよ涙は

  • GO!GO!7188
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲は中森明菜。 松田聖子と80年代の女性アイドルの人気を二分したほどの魅力は何よりもその歌の力。松田聖子とは陰と陽、松田聖子が陽なら中森明菜は陰。こういう性格的なキャラの差は大きかった。そして、この楽曲は井上陽水が作詞作曲。井上陽水の独特な世界観を中森明菜の陰の雰囲気が増長させた最強のコラボソングでもある。

これをカヴァーしたのがガールズ・スリーピースバンドGo!Go!7188。正確に言うと純粋なカヴァーではなく、マッシュアップ。KISSの「Detroit Rock City」のアレンジ・リフをベースに「飾りじゃないのよ涙は」を歌っている。しかも、普段のメインヴォーカルであるギター&ヴォーカルのユウではなく、ベース&ヴォーカルのアッコがメインを歌っている点もかなりイレギュラー。このハードロックとのマッシュアップのセンスと、それに合った歌声の良さだ。多分、このアレンジで中森明菜が歌ってしまってはあまりいいものにならなかったはずで、これぐらいラフにロックっぽく歌われた方がアレンジと合う。

「There will be love there-愛のある場所-」/JUJU

There will be love there -愛のある場所-

There will be love there -愛のある場所-

  • JUJU
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はthe brilliant green。枯れたちょっと渋めのブリティッシュロックっぽいサウンドと川瀬智子の余計な力の抜けた歌声が魅力のバンド。楽曲自体のキャッチーさや適度に抽象度のある歌詞は勝手に解釈もできて心を掴んで離さない。

この楽曲をカヴァーしたのはJUJU。カヴァー作品をたくさんリリースしており、洋楽邦楽を問わずいいカヴァーをしている。JUJUは元々ジャズヴォーカリストを目指してニューヨークに渡ったこともあり、J-POPも歌うがジャズも歌える歌手である。原曲のギターロック感を薄めて、元々楽曲が持つパワーとJUJUの歌声によってより中庸に持っていったことにこのカヴァーの価値がある。もちろん、ある程度原曲のオリジナリティは消えているが、その状態でJUJUの素直な歌声が混じることで原曲とはまた違った方向性を打ち出すことに成功している。

「大迷惑」/MONGOL800

原曲はUNICORN。全員歌って全員曲を作ることができる広島出身の5人組最強のバンド。楽曲の幅が広く、アルバム毎、楽曲毎にやっていることが違う。そんな彼らの中で「大迷惑」は代表曲の一つ。メタルっぽいハイテンポにストリングスを合わせるという無茶苦茶とマイホームを手に入れた直後に単身赴任させられる男の悲哀を歌った歌詞が特徴の楽曲。

これを沖縄出身の3ピースバンドMONGOL800がカヴァーすると、一気にモンパチ色に染まる。原曲のリフや基本構成は全く変えずに沖縄色を付ける。女性の掛け声を入れ、リズムをシャッフルにし、指笛を入れて沖縄風お祭りソングに仕上げている。ここまで原曲の雰囲気を変えて自分たちの色に染めるカヴァーはなかなかない。そして、最後にリズムをイーブンにしてハイテンポに攻める。ロック魂も忘れてはいない。

「バンビーノ」/もりばやしみほ

原曲は布袋寅泰の「バンビーナ」。「ロデオ・ロック」と本人が言う通り、古典的なロカビリーっぽさと荒々しいロデオっぽさがある。布袋自身がギタリストなのもあり、歌よりもギターを弾いている時間の方が長かったりもする。
これをカヴァーしたのが、もりばやしみほ。 原曲の男臭さや骨太さを削り落として、か細くキュートにキメるカヴァー。何よりタイトルを「バンビーナ」から「バンビーノ」に変更する細やかさ。これはあくまで両曲があって初めて成り立つカヴァーである。

「ピンク スパイダー」/RIZE

ピンク スパイダー

ピンク スパイダー

  • RIZE
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はhide with Spread Beaver。hide作品の中で唯一ミリオンセラーを記録した曲。闇を見つつ、希望は失わない歌詞で独特の世界観を醸し出している。サウンドも1998年当時にしてはへヴィでデジタルとのミックスも行っており、2000年代では当たり前になるサウンドを既に聴かせていた。

この楽曲を2006年にRIZEがカヴァーするのだが、PVは原曲と同じ丹修一が監督しており、カヴァーというよりもコピーに近いレベルでサウンドが似ている。一番大きな違いといえばヴォーカルの声くらいなもので、若干サウンドも新しくなっている程度。ヴォーカリストではないhideのヴォーカルよりも本来アクの強いRIZEのJESSEの歌声とのマッチ度が高すぎて、原曲より聴きやすいというとても不思議な状態のカヴァーなのである。カヴァーであるが、しっかりリスペクトが現れていて、変えることばかり考えるカヴァーも良いが、こういうカヴァーも良いものだ。

「secret base~君がくれたもの~」/SCANDAL

secret base~君がくれたもの~

secret base~君がくれたもの~

  • SCANDAL
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はZONE。学生時代の夏休みを思い出させ、何とも甘酸っぱい気持ちにさせられる楽曲。ZONEは当時10代のガールズバンドだったが、この楽曲前まではあまりちゃんと楽器を演奏していなかったが、この楽曲から楽器を演奏するようになった。10代のガールズバンドが歌った甘酸っぱい歌だったのも売れた要因だろう。

この楽曲をガールズバンドSCANDALがカヴァーしている。SCANDALがデビューした頃にはZONEは解散状態で、ZONEからすると次世代のガールズバンドに当たる。カヴァーしたのも2010年。演奏の安定感で言えばSCANDALの方がずっと上で、甘酸っぱさも外さずしっかりと演奏するとこうなるという姿を見せる。ちょっと下手くそな方が青臭くはなるのだが、歌も含めてこちらの方が安心して聴いていられる。

「今夜はブギーバック」/HALCALI&TOKYO No.1 SOUL SET

今夜はブギー・バック

今夜はブギー・バック

  • HALCALI & TOKYO No.1 SOUL SET
  • ダンス
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲は小沢健二とスチャダラパー。nice vocalが小沢健二、smooth rapはスチャダラパーがメインとなっている。コラボの先駆け的曲であり、1994年を代表する曲でもある。

この楽曲をHALCALIとTOKYO No.1 SOUL SETがカヴァーしたのだが、原曲とは異なりシャキっとしたテンポ感とHALCALIのちょっとユルい女性ヴォーカルが気持ちよいノリのあるアレンジに仕上がっている。シャキっとし過ぎないHALCALIの空気感は原曲に通じるものもあり、より新しいクラブミュージックとしての姿を提示してくれている。

「あの鐘を鳴らすのはあなた」/クレイジーケンバンド

あの鐘を鳴らすのはあなた

あの鐘を鳴らすのはあなた

  • クレイジーケンバンド
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

オリジナルは和田アキ子。作詞阿久悠、作曲・編曲: 森田公一で、第14回日本レコード大賞・最優秀歌唱賞曲。元々レコード大賞を狙って作ったと言われている楽曲で、パワフルな歌を歌う浪速のゴッド姉ちゃん和田アキ子の代表曲である。

カヴァーしたのはクレイジーケンバンド。「タイガー&ドラゴン」では和田アキ子風の掛け声を見せたり、声の太さには定評があるヴォーカル横山 剣。キーこそ下げているが、原曲のパワフルさと希望の光が差す雰囲気を落としてはいない。

「マシマロ」/木村カエラ

原曲は奥田民生。 奥田民生流テキトーの極みである歌詞の世界観と、演奏もザックリ2パターンしか構成がないシンプルさがむき出しの曲だが、タイアップもありヒットした。歌詞はタイトルから決め、特に意味がないのだがそれを最後に歌っている。

これをカヴァーしたのが木村カエラだが、元々はトリビュートアルバムに提供した楽曲だったにも関わらずベスト盤に収録される程の仕上りになっている。原曲ではシンプルなドラムのリズムにギター・ベース・オルガンのリフとちょっとしたコードだったのだが、もっとオルタナティブにモダンなサウンドに変更している。また、奥田民生の気の抜けた歌声から木村カエラのハリのある歌声になったことで楽曲の方向性が逆になった。これも違う方向に楽曲を進化させたカヴァーの一つである。

「愛すべきひとよ」/伴都美子

愛すべきひとよ

愛すべきひとよ

  • 伴 都美子
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はThe Kaleidoscope。1998年~2004年という比較的短い活動歴ながら、織田哲郎がプロデュースしたことでいい曲も多かったThe Kaleidoscope。彼らの楽曲の中でもヴォーカル石田匠のしゃがれた独特な歌声とハイトーンが気持ちいい楽曲がこの曲だ。

この楽曲をDo As Infinityのヴォーカリストでもある伴都美子がカヴァーしている。アレンジは原曲とは全く異なり、1番から2番、2番の頭からサビまでとどんどん盛り上がっていくアレンジになっており、どちらかというとより王道に近いロックアレンジがされている。しかも、2000年代後半らしいヘヴィなベースと胴鳴りが十分しているドラム鳴っているお陰で楽曲が新しく輝いている。女性にするとそれほどでもない音域のお陰で余裕で一番いい音域で歌えていることもあり、訴えるものは少なくなっているが全体として良くまとまったアレンジとヴォーカルに仕上がっている。

「さよなら大好きな人」/スピッツ

さよなら大好きな人

さよなら大好きな人

  • スピッツ
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲は花*花。亡くなった祖父に捧げて作った曲で、TBSドラマ『オヤジぃ。』の主題歌となり大ヒットした。花*花はピアノの弾き語り形式の女性デュオが素直な気持ちと、何かに当てはまりやすい歌詞が共感を生んできた。

これをスピッツがカヴァーしているのだが、原曲の良さを殺すことなくスピッツ色に染めている。原曲のアレンジもピアノを中心としたバンドアレンジとストリングスというスタンダードなものだっただけに、スピッツのポップなバンドサウンドでのアレンジも合う形であった。そして、草野マサムネの純真無垢な歌声が原曲や花*花が持つ素直な世界観をさらに広げている。

「恋の季節」/徳永英明

恋の季節

恋の季節

  • 德永英明
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

原曲はピンキーとキラーズ。ちょっと依存心の強い熱い恋心を女性目線で書いた歌詞とまさに昭和歌謡なアレンジとメロディは1968年『第10回日本レコード大賞』新人賞を獲得している。

これをカヴァーしたのは徳永英明。 カヴァーアルバムの『VOCALIST』シリーズは類型300万枚を売り上げ、カヴァーをするイメージも定着している。「恋の季節」のカヴァーは原曲の雰囲気を残しつつ、ちょっとロックにホーン隊も入れてリッチにアレンジされている。楽曲自体が良いので、最新版にアレンジしなおすだけでさらに磨きがかかってカッコよい仕上がりになっている。

「真夜中のドア」/小原英子

真夜中のドア

真夜中のドア

  • 小原英子
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

原曲は松原みき。1979年発売のデビュー曲で、アイドルでもなくニューミュージック系でもない独自の路線をいく歌手だった。今であればJ-POPに分類されてしまうような音楽だが、当時はこんな音楽はあまりなく分類ができなかったのだ。それこそがシティポップだった。ちょっとハスキーで色気があるヴォーカルもなかなか良い。

そんなシティポップをカヴァーしたアルバムが『TWILIGHT TIME』で、その中でも小原英子がカヴァーした「真夜中のドア」がの真夜中感を押し出すことに成功している点でとても良い。小原英子のヴォーカル自体はとても素直で癖がない。そこによりアーバンな雰囲気のアレンジをすることで、もっと軽く真夜中の雰囲気を醸し出すことができている。

「どんなときも」/井上苑子

どんなときも。

どんなときも。

  • 井上苑子
  • J-Pop
  • ¥250
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原曲は槇原敬之。槇原敬之の最大のヒット曲にして代表曲であり、1991年の第33回日本レコード大賞新人賞を受賞している。メロディの良さもさることながら、とてもいい人感があふれ出す歌詞の世界が魅力で、この曲でもその魅力が爆発している。優しくてどこか女々しいが、前向きさを忘れないように心がけている男を描かせるとミスチルかマッキーのどちらかなんじゃないかと思うくらいだ。

これをカヴァーしたのは10代のシンガーソングライターである井上苑子。ピアノと歌だけというシンプルなカヴァーだが、ここに一つ良さがあり、歌声が良く分かることこそ大事なことなのだ。この楽曲の持つ甘酸っぱさを増長させるには最高のアレンジに仕上がっている。実はマッキーの曲は女性が歌った方がいいんじゃないかと提示してくれる1曲。

最後に

駆け足で35曲のカヴァーの良さと聴くポイントを書いてきた。いずれのカヴァーも原曲が持つ本来の魅力を増長させていたり、別な魅力を提示してくれている。このポイントが原曲を超える可能性があるんじゃないかと個人的には思っている。

これをきっかけに1曲でも好きな曲が増えれば幸いだ。

こちらからは以上です。