Jailbreak

新しい世界の切り取り方

Mr.Childrenのドラマー鈴木英哉(JEN)の良さを再考してみよう

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先日、会社の飲み会があり、その中で普段あまり関りがない人と交流してみた。

すると、その人はドラムを叩いていて、「X JapanのYOSHIKIが神です!」なんて言うもんだから、アマチュアドラマーの自分とドラム談話に花が咲いた。

YOSHIKIのドラマーらしからぬカリスマ性であったり、分かりやすいカッコよさはドラムを始めるきっかけとして、とても良いと思う。

ただ、それだけじゃないよ!とは言いたくなるけれど。

 

関連記事:ドラム=YOSHIKIはやめましょう

 

そんな話の中で、「ミスチルのドラムって好きじゃないんですよ~。スピッツのドラムは好きなんだけどなぁ。」と話をされて若干モヤっとした。

いや、その人は多分本当にYOSHIKIが好きで分かりやすさの比較のために出してくれたんだと思う。

何ならスピッツの崎山のテクニック的な面は理解していたようなので、もしかしたらJENの良さをあまり知らずに言ってないか?と思ったのだ。

特にYOSHIKIと比較してここが良い!とかを言いたいわけではなく、こういうドラマーで、こういう良さがあるというポイントをあげたいと思って、この記事を書いている。

歌を支える安定感と歌心のあるしなやかなドラム

ミスチルの音楽の中心にあるのは、いつも歌、メロディであり、歌詞だ。

それに寄り添うようにアレンジがされているので、楽器隊が全体的に大人しい印象を受ける曲も多い。

普通のJ-POPと言えばそうかもしれないし、個性的なサウンドではないかもしれない。

だからこそ、歌が活きる。

 

例えば、『SENSE』収録の「擬態」なんてどうだろうか。

この曲のビートは普通の8ビートだが、Aメロ、Bメロとハイハットで8分音符を刻むのではなくて、8分音符を刻むのはフロアタム。

フロアタムでビートを刻むとロックっぽくなるのだが、そこをロックっぽくしないのはフロアタムのサウンドが低すぎずアタックだけのものではないからだ。

しかも、スネアはメインではなくサイドの強めにミュートされたものを使用することで、バックビートを弱めている。

サビでは打って変わってハイハットで8分音符を刻みつつ、バックビート以外にも細かくスネアを入れてスピード感を増している。

 

2回目のサビの後のブリッジは一転、刻みを最小限にしてヌケ感を出す。

そこから半分のビート、元々の8ビートへ戻していく。

この辺りはJ-POPとしては当たり前のアレンジだが、歌の邪魔をせずにドラムのダイナミクスや音色を生かした曲の強弱をつける。ミスチルのドラムとして一貫しているのはその姿勢なのだ。

 

この部分が物足りない人と思う人がいるのも確か。

手数はそこそこありながら、見せつけるような叩き方をしないし、そもそもドラムの格好がつくような音楽性ではない曲が多い。

しかし、フィルインはシンプルだけど口ずさめるという点において、歌心がありそれが控えめだけれど、しっかりと曲を彩っている。

積極的に裏方に徹し、支えが必要な時に支え、ほのかに彩る。これがJenのドラムスタイルの基本だと思う。 

 

ドラムサウンドにこだわり、良い音を追求

これも当たり前じゃん?と言われればそれまでなのだけど、そのアプローチ方法がJenらしさ溢れるものである。

 

打楽器全般に言えることで限界はあるが、基本的には叩けば叩くほど大きい音が出る。

ドラムセットにはシンバルが何枚かあって、 シンバルも叩けばガジャーン!パシャーン!と様々な音が出る。

打楽器のいい音は必ずしもフルスイングした時に出る音ではないのだが、パフォーマンスのためであったり、そのあまり良くない音を狙ったりと様々な意図がある。

出典が怪しいのだが、アルバム『Q』発売時のSound&Recording Magazineで桜井さんがインタビューに答えていて、その中で「Jenはシンバルを叩くときに、ただ強く叩くのではなくて、狙ったサウンドを出すために7割や8割の力で叩いてみるようなことを依頼すると、しっかりやってくれる。そういういい音を追求していくのは好きみたい」という旨の発言をしていた。

自己主張の強い音楽とは別のアプローチをすることで、楽曲全体のバランスや良さを磨く思考がうかがえるエピソードだ。

 

これも知っている人が多いかもしれないが、Jenはライブ中にスネアを楽曲に合わせて交換する。

まず、スネアはドラマーにとって個性を出すための命であり、こだわるべき楽器である。

そんなスネアをライブ中に楽曲に合わせて交換する。

 

これがどれだけ普通ではないかということを理解しなくてはならない。

普通スネアは1台でプロでもサイドスネアが1台あって、2台もあれば多い方である。(ニール・パートやテリー・ボジオあたりの巨大ドラムセットを叩くドラマーは例外だけど)

それが、あるライブでは6台を使いまわしている。

ある時はカンカン高音の効いた音かと思うと、ある時は低音の効いたドスドスとした音だったりもするので、そういう観点でミスチルのライブを聴いてみると楽しい。

TAMA Drums | ARTIST SETUP | 鈴木英哉

楽曲制作時にスネアの音を楽曲に合わせて選択するのはミスチルとしては当たり前のことであり、それをライブにも持ち込む姿勢が凄い。

こんな面倒なことができるのはミスチルほどのビックバンドであるということと、その手間を惜しまずやろうという音楽への姿勢が見える。

それ以外にもドキュメンタリーの『Split the Difference』ではバスドラのペダルをサウンドに合わせてドラムテックと相談する姿が見受けられたりと、レコーディングでのエピソードが絶えない。

ミスチルだけを聴いていると気付かないが、 スネアのサウンドが楽曲毎違ったりと他のジャンルだとやらないこともやっている。

そういうのをミスチルの呪縛として書いたこともある。

 

関連記事:Mr.Childrenが自分にかけた音楽に関する5つの呪縛

 

プロでもここまでこだわる人もいるし、こだわらない人もいる。

弘法筆を選ばずという言葉があるが、弘法だからこそ筆を選んで最高の作品にしたいという姿勢なのだ。 

 

たまに見せる攻めの姿勢

現在評価されているドラマーは手数が多かったり、グルーヴが絶妙だったり、派手なパフォーマンスをする等の特徴があるのがほとんどである。

逆に普通のプロのドラマーが普通にやっていることを普通にやっているだけでは、地味に見えてしまう。

こればかりは、楽曲での瞬間風速がモノを言うし、派手で特異だからこそのインパクトの大きさがモノを言う。

Jenは8ビートしか叩かない?んなわけない。

確かにシングル曲はそうなりがちなのは認める。

 

しかし、Jenは楽曲のアプローチの中で攻めの姿勢を見せないかというと、そうでもない。

例えば、『I ♥ U』収録のオープニング曲「Worlds end」は単純な8ビートを刻まず、珍しく細かく刻みつつ手数をかなり出している。

ギターやベースが8分で刻む中、最初は8分で合わせつつ後半で16分で刻む。

それの16分の刻む範囲がサビに向かって増えていく。

単純に音数で盛り上がりを表現しつつ、一定のパターンをただ単に刻むだけではないアプローチだ。

難しいかどうかでいうと高難易度ではないが完コピする難しさと1曲を通して叩ききる難しさはある。

そういうちょっと聴いても分からない部分の難しさを抱えている点において、このドラムをコピーすしようとすると、厄介で面倒だと思わせる手ごわさもある。

 

他にも瞬間風速の早さでちょっとゴスペルチョップスっぽい感じを受けるのは、『SENSE』収録の「ロックンロールは生きている」のブリッジ後半部分3:16~から聴ける細かい入りから減速するパターンのフィルイン。

スネアやタムの胴鳴りのサウンドの良さと相まってカッコイイし、Jenのイメージにはないのではないだろうか。

 

ロックっぽいアプローチであれば、「I'LL BE」のシングルバージョンでのブリッジではバスドラを細かく踏んだグルーヴィーなリズムパターン、『BOLELO』収録の「タイムマシーンに乗って」でのバスドラを細かく踏むだけでなくパターン自体もイジりながらロックなスタイルに仕上げたキレの良いドラム、ボンゾ風の重いリズムなら『深海』収録の「シーラカンス」なんかがサウンドも含めて良いだろうし、ジャジーなアプローチなら「KIND OF LOVE」収録の「グッバイ・マイ・グルーミーデイズ」ではイントロから手数を出している。

いずれも世に知れたシングル曲で見せることはない攻めの姿勢なので、 知らないのも仕方ないと言えなくもない。

 

オリジナルメンバーであるが故のバンドの安定性

ミスチルはメジャーデビューしてからメンバーの変更がないバンドだ。

これがどれほど珍しいことかを示す統計があればいいのだが、残念ながらそんな統計手元になかった。

バンドメンバーの脱退や加入はそれほど珍しいことではないし、死別なんてこともあるので、人間がバンドを構成している限りメジャーデビュー時のオリジナルメンバーのままバンドを継続するのはとても難しい。

Jenと同じような批判をされがちなBUMP OF CHICKENのドラムの升について、最近のドラマー論とともに考えてみたことがある。

 

関連記事:BUMP OF CHICKENとドラマーの上手い下手と好き嫌いと音楽

 

上記の記事でもでも触れたのだけど、ミスチルと同じくオリジナルメンバーだけで構成されたBUMP OF CHICKENに似た傾向があって、オリジナルメンバーだからこそ作ることができる作品があると思う。

例えば、もっと外部の凄いミュージシャンを入れてキレッキレのテクニックを見せつけてマッチョな音楽にする…ってミスチルとかBUMP OF CHICKENの音楽性でしたっけ?

そうじゃないのは明白で、それよりもヴォーカルが持ってきた元ネタをみんなで広げて、一つの作品に仕上げていくという作り方を基本にしていて、元ネタを各々がどうやって表現しようかと考えて、他の楽器やアプローチと上手く合わせながら作品として作り上げている。

そうやって30年以上作品を作って、売れ続けているこの安定性って凄いことなんですよ。

 

もちろん作詞作曲をする桜井和寿の才能はミスチルの4分の1以上の価値がありそうなのだけど、最終的に作品として発表してナンボで、ミスチルの世界観で表現できているからミスチルなんですよ。

そして、その変わらないメンバーで楽曲にアプローチしているJenは大事なメンバーなのです。

 

聞こえてくるキャラ・人柄

本人に面識もないし、近い人を知っているわけでもない。

それでも、聞こえてくる噂やキャラはおちゃらけて憎めないキャラ。

前述の変わらないバンドメンバーにも関わるのだが、ミスチルは田原さん・中ケーの大人しいキャラと、実は明るそうでちょっと暗めな桜井、ノー天気なJenというキャラで構成されていてバランスが取れている。

PVや写真だとカッコいい顔つきだが、実は笑い上戸なJen。お酒も好きで、交友関係も広いとか。

 

面白くていい人のドラマーって実は結構大事で、バンドの中にこういうクッションみたいになる人がいるおかげで、 バンドって成り立っていたりするのかなと想像する。

そんな理由も(?)あって桜井さんはJenのことを歌詞のモチーフにすることもある。

『SUPERMARKET FANTASY』収録の「ロックンロール」はJenがモチーフだと桜井さんが語っていたり、古くは『Atmic Heart』収録の「雨のち晴れ」はJenが会社員だったらという設定らしい。

いずれの曲もJenのキャラがあってこそできた曲。

歌詞にできちゃうくらい面白い人ってそんなにたくさんいないはず。

 

最後に

書ききって思ったのだが、「ふーん、それでも好きじゃない」って言われることもありそうだなと。

しかし、これだけのことを知って好きじゃないんなら仕方ないでしょう。

この記事によって、知らないことが一つでも知ることができて、ミスチルの楽曲の聴き方が変わったり、知っている曲ももっと楽しくなったりするんじゃないかなと思う。

それならそれでいいかなとも思うわけだったりする。

 

件のYOSHIKI好きの人のYOSHIKI好きは否定しないし、それはそれでよいと思うのだが、案外ミスチルのドラムも音楽的に色んな事やってるし、カッコいいんだよ?って話をしてみようかなと楽しみで仕方ない。

別にミスチルを布教したいわけでも、Jenを推したいわけでもないし、あくまで話のネタとして。

 

こちらからは以上です。

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