Jailbreak

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老舗ロックバンドの変わっていくこと・変わらずにいること~Pretty Maids『Kingmaker』とWarrant『Louder Harder Faster』~

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 Pretty MaidsとWarrantの最新アルバムを聴いた。どちらのバンドも1980年代に結成し、30年以上のキャリアを持つHR/MH系のバンドだ。2つのバンドがリリースした最新アルバムがかなり対照的だったので、比較しながらレビューしていく。

Pretty Maids『Kingmaker』

プリティ・メイズ『キングメーカー』【CD(日本盤限定ボーナストラック/歌詞対訳付き/日本語解説書封入)】

1.When God Took a Day Off
2.Kingmaker
3.Face the World
4.Humanize Me
5.Last Beauty on Earth
6.Bull's Eye
7.King of the Right Here and Now
8.Heavens Little Devil
9.Civilized Monsters
10.Sickening
11.Was That What You Wanted
12.Kingmaker(extended version)
13.Humanize Me(extended version)

オススメ曲→3、5、7、10

 

前作から2年ぶり15枚目の『Kingmaker』は王道なハードロックを中心に、ノスタルジックに壮大に爽やかにアルバムが展開する。へヴィさは追及されていてるが、ドンシャリサウンドで歌の邪魔をしない音圧を稼ぎ、相変わらずしゃがれたRonnie Atkinsのヴォーカルが映える音になっている。歌詞も「Last Beauty on Earth」のようなラブソングから、「Kingmaker」のようにどうとでもとれるもの、「Was That What You Wanted」では世界情勢がネタになっていて、いつもにも増して幅広い。サウンド面は往年のパワー・メタルサウンド「Face the World」、珍しくギターがコードをかき鳴らす「Last Beauty on Earth」、攻撃的に突進していく「King of the Right Here and Now」とまだまだパワーアップした姿を見せた。

以前からメロディアスなので、楽曲が聴きやすいのは変わらず。そこから楽曲の展開をしているので、全くハズレがない。以前の作品と比べると、キーボードが正式メンバーとしていなかったせいか、ギターがバッキングの中心にいるせいでよりソリッドな作品になっている。また、ギターもKen Hammer一人のため、ツインリードは少な目。それでも十分聴きごたえがある作品だった。

Warrant『Louder Harder Faster』

ラウダー・ハーダー・ファスター

1.Louder Harder Faster
2.Devil Dancer
3.Perfect
4.Only Broken Heart
5.U In My Life
6.Music Man
7.Faded
8.New Rebellion
9.Big Sandy
10.Choose Your Fate
11.Let It Go
12.I Think I'll Just Stay Here and Drink

オススメ曲→1、4、7、8、9

 

よりラウドにハードに早く。ハードロックバンドの普遍的な掛け声になりうるアルバムタイトルがこのアルバムをよく表している。へヴィよりもラウドで、中音がしっかりとでたギターがサウンドの中心でありながら、ベースとのリフの絡みがより深みを出している。ハードさは25年間積み上げたサウンドで決して変わらない芯がありながら、2010年代にチューニングされている。アップテンポなアルバムタイトル曲に始まり、「Only Broken Heart」、「New Rebellion」はあるが、スローな「U In My Life」、「Music Man」のような曲もあるので、テンポが早い曲ばかりではないので安心して欲しい。

グラムメタルバンドらしい見た目とパーティーのように盛り上がっていこうという陽気さは、とてもこのバンドらしさがあってよかった。80年代のLAメタルの雰囲気をそのままに、あの頃の姿を見せてくれたことが嬉しい限りだ。

変化と不変のあり方

2つのバンドとも、代名詞と呼べるバラードがある。Pretty MaidsにはJohn Sykesのカヴァー「Please Don't Leave Me」、Warrantには「Heaven」だ。

 90年代前後のハードロックブームであっても、売れる楽曲は結局バラードだった。その時代のムーブメントに乗り、日本でウケる作品を作ったのだ。今回の2作品は特に新たな代表曲になるような曲はなかった。どちらのバンドもメンバーの脱退や活動停止・活動再開と紆余曲折があったが、ソングライターは変わっていない。ここが大きくバンドの印象を変えていない大きなポイントだと思う。しかし、Warrantはヴォーカルが変わったという大きなポイントがあるが、Pretty Maidsはそれがない。Warrantの元ヴォーカル故Jani Laneは美形でいわゆるイケメンだったのもあるが、バンドの顔が変わるのはやはり影響が大きい。

今回の2枚のアルバムの大きな違いは向いている方向だ。Pretty Maidsは未来に向いていつも通りであったが、Warrantは原点回帰でいつも通りであった。どちらもいつも通りという点は同じだが、過去・未来と向いている方向が違う。テイストを変えながら幅を広げて新鮮さを出したPretty Maidsとあの頃のWarrant。これは「アーティストに何を求めるか」というリスナーへの問いだ。

最後に

個人的な好みの話をすると、Pretty Maids『Kingmaker』は2017年上半期パワープレイしたアルバムに入る予定があるくらい聴いている。アルバム全体として好きだし、丁度よりへヴィさとヴォーカルの声なのだ。2016年後半は邦楽のアルバムをよく聴いたので、その反動も(きっと)ある。

 アーティストがいつも未来志向でなければならないかと言えば、決してそんなことはなくて、原点回帰した作品がとても良いことだってある。新しいことに挑戦したが故に昔からのファンを失うことだってある。いずれも結果の話であって、そのアーティストの新しい作品は自分にとってどういうものかという評価を持っておくのは悪くない。できるだけ初めて聴いたときの新鮮で率直な感想と、よく聴き分析した感想を混ぜながら忘れないようにこんな風に書き残している。こういうものが点としてあると、アーティストだったり、発売年代だったり、ジャンルだったりといった軸の中で比較しやすくなる。比較して評価して、また新しい音楽を聴いてを繰り返して、その音楽の価値を自分のものにしていくのだ。 

こちらからは以上です。

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