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そのアルバムが自らの音楽観の経過点だと、評価できない件~Metallica『St.Anger』の評価について~

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自分はGoogleのレコメンドの記事をよく見ることがあって、そこに『St.Anger』という文字があって、思わず開いて読んでしまった。

『St.Anger』自体はMettallicaの黒歴史として扱われ、分かりやすく批判を受けやすい(好みが分かれる)ポイントがあるので、槍玉に上がりやすい。多分、上記記事の筆者もそういう既存の評価を覆そう、新しい評価をしようという意気込みがあって、とても良い記事だった。概ね、『St.Anger』を擁護するような形で、時代背景(当時のトレンドや)であったり、新しい視点をくれる。

別に嫌いな作品を好きになって欲しいとまでは思わないが、新しい視点を取り込んだ上で、その作品に向き合うことは、良い経験につながらないだろうか。そんなことを再考させられた。

 

しかし、『St.Anger』への自分の評価は、一般的な評価とはまた少し違う。それは、自分の音楽観を作る時の経過点なので、リアルタイムで良いと思っていて、それを一般に否定されようがあまり関係がない。もちろん、一般的な評価から自分の評価を以て、ひっくり返そうとするとまではいかないまでも、これはこんなに良いんだ!というのが難しいパターンがあるなと思った。

 

先述の記事でも書かれているのだが、『St.Anger』はイギリスのMETAL HAMMER誌のThe 10 worst albums by 10 brilliant bandsの1つに上がっている。これはある程度の評価を受けた状態と言える。

書かれ方としては、下記のような形。

Yeah, Metallica’s collaboration with Lou Reed on Lulu was hard to swallow – but it was meant to be. On the other hand, St Anger was simply all over the place - the work of a brilliant band who really weren’t having a good time of it. James Hetfield’s self-lacerating lyrics sound like a man working out his issues in public, which wouldn't be a bad thing if they weren’t set to a bunch of songs that went nowhere and took an eon getting there. And let's not even start on that drum sound. Lars can retcon it as some kind of art statement or deliberate self-sabotage, but it was just a terrible decision. Sad but true, as somebody once said.

 The 10 worst albums by 10 brilliant bandsより引用

 批判のポイントは、James Hetfieldの当時のアルコール問題を抱えた歌詞、楽曲の長調さ、Lars Ulrichのドラムサウンド(概ねスネアのサウンドのことだと思う)という3点。ついでにLou Reedとのコラボにも、明るくちょい噛みする雰囲気はそういう感じなんだろう。『St.Anger』の批判のポイントとしては、自分の感覚としてはよく見聞きしてきた批判のポイントであるので、特に真新しさはない。

その他の自分が好きなアルバム、Slayerの『Diabolus In Musica』は、過去の作品よりも良いところがなく、ギターのKerry Kingが後に「暗黒時代だった」と自己批判したことも挙げられている。また、Limp Bizkitの『Results May Vary』は一時期脱退していたギタリストのWes Borlandが不在で、カッチカチのギターであることあること、Slipknotの『All Hope Is Gone』は「Dead Memories」のように昔にはなかったイマイチな楽曲があることを挙げている。これも、いずれも割とよく見聞きする批判なのかなと思っている。

 

自分は、METAL HAMMER誌のいずれの批判も割と好きなポイントである。『St.Anger』のLarsのスネアだって、Wes不在の『Results May Vary』や、ポップでキャッチーな「Dead Memories」がある『All Hope Is Gone』も、良いなと思うポイントである。一般的な評価は理解するが、批判されるポイントを新たな変化として受け入れてきたので、逆にこれが名盤だと決めて、それ以外認めないようなスタイルは残念だなと思うのです。

 

自分の音楽遍歴的には、『St.Anger』がMetallicaの作品として出会った順番で言うと、4作目にあたる。『Reload』、『Load』、ライブ盤だが『S&M』という後に聴いている。もう少し詳しく言うと、元々「Fuel」がカッコイイと気づいて『Reload』を中古で手に入れ、ライナーノーツで姉妹盤として紹介されていた一番味気ない『Load』を聴き、Mr.Bigのライブ盤が最高だからMetallicaのライブ盤も最高だろうと中古で手に入れた『S&M』という流れである。そのため、「Battery」や「Master of Puppets」のような初期のスラッシュメタル然とした作品や、「Enter Sandman」のようにブラックアルバムでグルーヴィーな方向に落ちついたものは、後から、しかもオーケストラとの共演という特殊なライブ盤で出会った。つまり、初期の名盤たちに出会う前に『St.Anger』と出会っているので、自分より上の世代や発売順でアルバムを聴いてきた人とは、Metallica観が違うのである。

では、この差を埋める必要があるかというと、特にないと思っている。何なら、良い点も悪い点も含めて、他の人の評価をきくのは、面白い。例えば、『St.Anger』のスネアのように同じ点でも、良い評価や悪い評価が分かれたりするのは、その人の価値観が違うとしか言いようがない。自分の価値観と同じくらい、他の人の価値観を尊重したっていいはずだ。

 

件の『St.Anger』の再考察だが、当時の時代背景と後に発生したストーナーメタルと結びつけて考えていたり、前作のブラックアルバムに対するアンチテーゼとしての位置づけを見たりと、その当時ではできない評価をしている。20年が経過した今だからこそ、その後の影響であったり、もう一度Metallica最大のヒット作品のブラックアルバムの評価が変わらないことによって、再定義できる評価である。 

こういう評価の仕方は非常に良かったので、参考としたい。 

 

こちらからは、以上です。

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