リライトのリライトを知って、アジカンのオフィシャルサイトと見るとなかなか面白そうなことになっていたのでその辺の雑感をまとめて書いておこうと思う。
2ndアルバム『ソルファ』をリレコーディングし、その代表曲「リライト」をリライト.するという企画なのだ。再レコーディングされた『ソルファ』は2016年11月30日に発売だ。
リライトのリライトとソルファについて
まず前提としての『ソルファ』がある。
『ソルファ』はアジカンの2004年10月20日発売の2ndアルバムだ。バンドとして初めてオリオンチャート1位を獲得したアルバムでもあり、前作の1stアルバム『君繋ファイブエム』から積み上げてきた人気がやっと爆発した作品でもある。
収録曲は以下の通り。
1.振動覚
2.リライト
3.君の街まで
4.マイワールド
5.夜の向こう
6.ラストシーン
7.サイレン
8.Re:Re:
9.24時
10.真夜中と真昼の夢
11.海岸通り
12.ループ&ループ
3rdシングル「サイレン」、4thシングル「ループ&ループ」、5thシングル「リライト」が収録されており、いずれもライブでは定番曲になっている。また、8曲目の「Re:Re:」はアジカン20周年イヤー第2弾シングルとして発売されいている。
アジカンの初期の名盤だと個人的には思っていて、アジカンの良さがしっかりとあり楽曲のバランスの良さが際立った作品だ。アジカンの持つ「ギターロック」や「抽象度の高い歌詞」や「ロックの初期衝動」といった要素がしっかりありつつ、当時から流行りつつあった4打ち+裏打ちというダンスの要素を「Re:Re:」や「ループ&ループ」で取り入れているのである。
『ソルファ』の中でどの曲がアジカンらしさを出しているかというと「リライト」だ。
このアルバムの中で一番テンポが早く最高に上がる曲で、ライブで聴いたら間違いなく盛り上がり、サビで「消してーりらいとしてー」と一緒に絶叫しているテンションの高さがある。イントロのギターはアジカンお得意のオクターブ奏法によるリードで、1曲目「振動覚」や5曲目「夜の向こう」、12曲目「ループ&ループ」でも使われていて、アジカンのギターアレンジとしてよく登場する。さらに歌詞の抽象度は高く何にも歌っていないと言えばそう思えるし、もしかしたらど真ん中を貫きキーワードがあることで一気に全部を理解できそうな気もするのだが、そんなキーワードは見つかっていない。アジカンの歌詞は解釈もしなくていいし、理解しなくてもよい。
リライトのリライトが他の人が行うと
企画として今回は4組のアーティストがリライトのリライトをテーマにYouTubeを公開している。千原ジュニア、入江早耶、Creepy Nuts(R-指定&DJ 松永)、生ハムと焼うどんの4組で、必ずしも音楽には直接関係がない千原ジュニア、入江早耶が含まれているのが面白いところだし、各々が守備範囲としているジャンルが異なるところがポイントだ。
あくまで「リライト」をお題にしているだけで、「リライト」を歌うとか演奏するとかそういうことではないので、その点はご注意いただきたい。
千原ジュニア
お笑い芸人のジュニアは演目「死神」として高座で一席弁ずる。古典落語の「死神」をところどころリライトしてキーワードが入っている。そして、リライトの節に掛けてキレイに終わる小話は見ごたえ十分。
入江早耶
入江早耶は消しゴムのカスを使ったアートを作る”消しカス”アーティストである。実際に立体にしたいものを実物から消しゴムで消し、その消しカスを使って作品を作る手法をとっている。消されるのは中村 佑介が描いた『ソルファ』ジャケットの少女。どのような仕上がりになっているかはご自身で確認するのがよい。
Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)
DJユニットのCreepy Nuts(R-指定&DJ松永)が挑むのはフリースタイルラップ。しかも、アジカンから「存在の証明」、「自意識過剰」、「全身全霊をくれよ」、「アジカン」、「20年」と5つのキーワードを与えられる。「リライト」のブリッジに合わせて紡がれるライムは要チェック。
生ハムと焼うどん
楽曲と楽曲の間のMCで寸劇を行う生うアイドル、ハムと焼うどん。よくこの人達にオファーしたもんだと思う一方で、この世界観が受け入れられるなら120点満点のことをやってくれる。大事なことだから繰り返すが、「あくまで、この世界観が受け入れられる」ならね。
リライトのリライト
今回のメインとなる「リライト」を中心にリレコーディング(Rerecording)することの価値について考えてみたい。
「リライト」はシングルとして2004年8月4日に発売され、2ndアルバム『ソルファ』に収録されていて、2004年には発表できる形になっていた作品だ。
アニメ『鋼の錬金術師』のオープニングテーマに選ばれたこともあり、彼らが一躍トップアーティストへ駆け上がるステップになったのは確かだ。アップテンポ、ジャリっと歪んだギターとモジュレーション掛かったクリーンとの対比、2本のギターによる異なるフレーズの絡み、声を張って”消して”と叫ぶ一方でブリッジのカクカクとした固いリズムと棒読みの歌。彼らの代名詞となっている要素が山ほど含まてれいる。
そんな楽曲が12年後にリレコーディングされてどう変わるか。
細かいポイント毎に違いがあるのだが、分かりやすい違いは「何だか音が新しくなってブリッジが伸びている」くらいにしか感じないかもしれない。
サウンド全体は喜多のギターがミドルが強めに出ていて、後藤のギターはメタリックに歪みを少なめにソリッドに仕上げている。山田のベースは以前に比べてあまりガリガリ鳴らないセッティングなのかミックスなのかナチュラルに仕上がり、伊地のドラムはスネアのチューニングが下がり、以前のチューニングが高くない中での高音のカンという鳴りが無くなり大人しく仕上がっている。
ヴァースのギターのアルペジオがちょっと歪んでいたり、2回目のヴァースの”自分の限界をそこに見るから”の後のドラムのフィルインがスネア16分音符6発からバスドラ16分音符2発で簡素になっていたりするが誤差の範囲だ。何より、ブリッジでギター・ベース・ドラムが交互に行きかって不思議な浮遊感を醸し出しているのが一番の違い。
それ以外にも演奏が全体的に丁寧になっていて、後藤はよく声が出ている。これは12年かけてライブで演奏してきた結果曲を自分達のものにした結果だろう。
楽曲をリレコーディングすることの価値
リレコーディングする価値は今までの楽曲の新しい解釈が生まれることにある。同じ曲を何年もライブで演奏し続けると進化していくこともあるし、当時とはまた違うテクニックや考え方を以て楽曲にアプローチすることが大事だ。しかし、既にあるものを壊すのはとても難しい。これで完成だとリリースした作品をもう一度解釈し直すのは過去の否定や新しい価値といった高度な思考が必要だからだ。
手段として楽曲の見た目を変えることはリレコーディングする意味を持つ場合がある。例えば、アメリカのロックバンドJourneyが2008年リリースの『Revelation』のDisc 2で新しいヴォーカルArnel Pinedaが歌い、バンドメンバーが新たにレコーディングした1978~1986年の曲達は完全に蘇っていた。発売当時のメンバーからキーボードやドラムやヴォーカルが変わり、約23~30年の年月が流れているのだから最新のサウンドやレコーディング技術で蘇る音があるのだ。
1983年の名曲「Faithfully」を聴いてみるとその凄さが分かる。
原曲はこちら。
リレコーディングされたものはこちら
何が凄いかというと、ヴォーカリストが変わっているのに声質が同じで同一人物が歌っているんじゃないかと思うくらい似ているのだ。一方、バンドサウンドはよりハイファイになりしっかりと音圧がある。今同じ曲をレコーディングするだけで霞んでいた音は無くなってはっきりするのだ。あとは好き嫌いで、昔の音が好きなのか最新の音が好きなのかの話だ。
もう1つリレコーディングとして楽曲の見た目だけでなく、流れる血まで変えるアプローチをしたのがMr.Childrenだ。ドキュメンタリー映画『Mr.Children / Split The Difference』で”今までの楽曲に新しいアプローチをして、週末にライブとして発表しよう”ということを行っている。他のミュージシャンとのコラボやアレンジの変化を楽しみ、あまり多くない人前で発表する姿はとても面白い。
Mr.Childrenが既存楽曲をアレンジを行うのはライブでの常套手段でこれに限ったことではないのだが、そのアプローチの過程や思い悩みアイディアを絞り出す姿が見られる。ここでのアレンジの違いはDVDで確認できるので、是非見ていただきたい。
新しいアプローチといっても、見た目(サウンド)が変わることや血が変わる(アレンジが全く変わり違う楽曲に聴こえる)ことがあり、何を残して何を変えるのかのポイントが違うことが分かるはずだ。
最後に
アジカンがどこまでのアプローチをするかは現時点では不明だが、サウンドが新しくなることは確かだ。先ほどの示した通り、「何を残し何を変えるか」のバランス感覚が試される。2016年版『ソルファ』を心待ちにしている。
こちらからは以上です。
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