Jailbreak

新しい世界の切り取り方

6年待たされた価値はあるが、長すぎないか?サカナクション『834.194』の感想

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834.194

DISC-1

1.忘れられないの

2.マッチとピーナッツ

3.陽炎

4.多分、風。

5.新宝島

6.モス

7.「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」

8.ユリイカ (Shotaro Aoyama Remix)

9.セプテンバー -東京 version-

 

DISC-2

1.グッドバイ

2.蓮の花

3.ユリイカ

4.ナイロンの糸

5.茶柱

6.ワンダーランド

7.さよならはエモーション

8.834.194

9.セプテンバー -札幌 version-

オススメ曲→DISC1:5,6, DISC2:3,9

 

前作『sakanaction』から約6年3か月。待ちに待ったサカナクションの新作『834.194』を聴いたので、その感想。

 

待ったのは確かなのだが、作品を聴いてみると案外新鮮な感じがしない。

それもそのはず、セプテンバーがバージョン違いなので実質17曲なのだが、半分以上の13曲はシングルやCM・TVとのタイアップ、バージョン違い等である。楽曲は知っているし、何なら既に好きな曲に入っているなんてこともある。「グッドバイ」と「ユリイカ」に至っては、2014年1月に発売されてるではないですか。そういう意味では、新鮮さには欠けるかなと。これは、日本の音楽の売り方で、先にシングルを発売して、まとめてオリジナルアルバムにする手法がとられるのが要因だ。アメリカのように、先にアルバムを発売し、シングルカットをしていく手法であれば、また違う印象だったのは確かだ。しかし、6年以上何の作品も発表しないのはちょっと待ちきれない。この辺は後でももう少し書く。

 

楽曲のクオリティはさすがの一言。時間をかけただけあって、磨き抜かれている印象。捨て曲なしというのは、このアルバムの凄いところ。シングルで発表している曲が多いもあるが、アルバム曲であっても雰囲気や歌詞の世界観とも抜かりがなかった。

まず、「新宝島」と「モス」の昭和ドリフ感のある元気のよい楽曲は、サカナクションの新たなスタンダードになったと思う。

両曲に共通するのは、シンコペーションの聴いたリフだ。これをギターでやらず、シンセやブラスを使って太さを出すことで、歌謡曲のちょっと古臭い雰囲気をいい意味で醸し出している。

静かな雰囲気で押す楽曲も良かった。バンド感を消し、デジタルに寄せるのも忘れない「ユリイカ」はビートも打ち込みで、山口の歌声も浮遊感がある。さらに、「茶柱」のピアノをベースとして、少しの音を重ねるずっと静かな雰囲気。和音の構成や展開がヨナ抜きっぽくて、和風な雰囲気を出しながらヴァースで展開してメロディアスさは忘れない。

そう考えると、案外全体的にバンド色が強くて、何だかんだバンドとしての底力みたいなものを見せつけられた気がする。「陽炎」では、山口が珍しく凄んで歌ってみたり、ブリッジではサイケデリックなシンセとギターの絡みは最高にカッコよかったし、「忘れられないの」の間奏のベースラインは、実質ベースソロ。ドラムが生であるだけで、一気にデジタル感が抜ける。こうやって楽曲のバランスをとっている。

全体的にキャッチーなメロディは貫いていて、全部歌えるくらい分かりやすい。歌詞は、割と具体的な名称が出てくるが、実は何かのメタファーなんじゃないか?とか別な意味があるんじゃないか?くらいは考えることができる内容になっている。ただ割と、歌がエモいのだが、歌詞はそんなに何かを歌っている感じがしないのが特徴かなと。

 

前述の新鮮さの話になるのだが、この正体は全体に漂う昭和の雰囲気だと思う。端的に言うと、このアルバムは日本の歌謡曲だ。

バンド色が強めだったりもそうなのだが、このアルバムは全体的に過去に回帰していて、その回帰している先が歌謡曲であり、その歌謡曲が目指した70年代や80年代の洋楽だ。そのままコピーするでもなく、良いところを取り入れつつ、日本らしいメロディは貫き、独特な世界観を生む。今回はテクノよりもブラックミュージックやダンスミュージックに向いていたんだと思う。「聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに」なんて曲も収録されているし、以前からあった踊れる気持ちよさみたいなものは残っているとも感じた。

 

もっと早く発売してほしいとも思いつつ、タイアップ等でよく耳にする機会もあったので、アルバムとしてどんな風になるか楽しみにしていた。では、このアルバムが2枚組ではなくて、半分でいいからもっと早く発売すればよかったか?というと、答えはNOだ。また、かけた時間の分だけ、しっかりと作品として仕上がっているからこその出来で、よくこんな売り方できたもんだなと感心する。

 

こちらからは、以上です。

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