Jailbreak

新しい世界の切り取り方

自分が大好きなロックなインストを紹介する

広告

 

皆さんは、インストゥルメンタル(歌なしの楽器だけの楽曲)は好きでしょうか?自分は普段音楽を聴く分にはあんまり好きではなくて、できれば歌モノを聴きたかったりします。

歌モノを聴きたい理由としては、聴きどころが分かりやすいというのが大きいのではないかと思うのです。最近のJ-POPでも洋楽でも歌モノは分かりやすくサビの様に盛り上がる部分があったり、自分の好きなイントロがあったり、歌詞や展開があったりと、この曲のここが良い!と分かりやすく言いやすい傾向があります。キャッチーなメロディってだけでも十分です。

それに比べて、一般的にインストは聴きどころが分かりにくい傾向があるんじゃないかと思うわけです。楽器でなぞるメロディは歌とは違うし、イントロと歌の差のような分かりやすさはなかったりします。それであっても、リフがカッコよかったり、分かりやすいキャッチーさみたいなものを持っている楽曲は世の中にはたくさんあります。そういう楽曲に出会えるきっかけになってくれればと思っています。

Rush/YYZ

Rushを知っている方にとっては、代表曲の一つだと思うし、知らない方は何だか複雑な曲だなと思うかもしれない。知っている人も知らない人であっても、この曲は口ずさめる曲で、何なら大合唱できるインストであるということが凄い楽曲である。

まずは、この曲を知らない方に向けては、イントロ後にキメがあった後(0:45頃)にこの曲のメインテーマが現れるので、この部分から楽しんでもらいたい。Rushはスリーピースバンドで、基本的にはギター、ベース、ドラムという楽器に、ベースのGeddy Leeが歌を歌ったりシンセを弾いたりして幅を広げるような構成だ。そんなところに、ギターとベースで同じメロディをユニゾンする。つまり、ドラム以外の音を追えば、メインテーマにたどり着く。事実、このLive In Rioでは、ブラジルの観客が大合唱している。インストの楽曲って一緒に歌うものなのか?とも思えなくもないが、歌ってしまった方が楽しいのだ。なので、是非ともこのメインメロディは歌ってみて欲しい。

では、知っている人はどう楽しめばよいかというと、イントロのリフを口ずさんでみるのが良い。正直、最初は全然何をやっているか分からない。それもそのはず、5分の4拍子を2つ掛け合わせた10拍で1フレーズとなっており、7/8、7/8、6/8という組み合わせで出来上がっている。これを頭で理解するのも良いのだが、細かいことは気にしないで、歌えてしまえばOKな変拍子である。これをマスターするという楽しみ方はいかがだろうか。

もう少しいうと、ギターソロ明けの1:45頃~リフからのベースソロとドラムソロの掛け合いがあったり、その後のAlex Lifesonのオリエンタルなギターソロ、その後にGeddyがシンセに持ち替えて展開し、またメインメロディに戻ってくる。こういう展開の見せ場があって、全部口ずさめる場所があるくらいキャッチーさがある。

さらに、2020年に亡くなってしまったドラムのNeil Peartの手数の多さと、正確さが半端じゃないことが分かると思う。しかもそのテクニックがいやらしくなく、スマートにキメるからカッコイイ。例えば、メインメロディ後にギターがリードをとる1:14頃のライドシンバルの音をよく聴いてもらうと分かるのだが、ちょっとずつ叩いているところを意図的に変えているのでリズムにメリハリが出て、それだけでグルーヴィー。それ以外にも、最初のリフだってよく聴くと、ただユニゾンでリズムを刻んでいるだけではなくて、ちょっとずつ展開していって、音に広がりを持たせて、キメに持って行っている。当たり前と言えば当たり前なのだが、こういう細かい芸がさすがと言わざるを得ない。

最後に、この曲名の「YYZ」の由来だが、Rushの出身地であるカナダのトロント国際空港の国際コードであり、このモールス信号がイントロのリフの元ネタだったりする

T-Squere/Truth

言わずと知れたF-1のテーマソング有名な「Truth」。イントロのシンセのフレーズからギターが重なってからの、オーケストラヒットでキメるこの感じは時代を感じざるを得ません。近年なかなかオーケストラヒットを聴かないですが、これがあるだけで一気に古めかしい感じになるのは、PPAPでピコ太郎がTR-808のカウベルを使ってたことで、新しい音へとアップデートされるようなことがないと、変わらないんだろうなと勝手に思っている。あとは、とにかく車を運転しているときに聴いてはいけない曲で、無意識にアクセルを踏み込んでしまうから、一度ついた音楽のイメージはなかなか変えられない。

いわゆるジャズ・フュージョンなので、ロックなのか?と言われると、ドンズバのロックではない。ただ、ジャズを基調にとロックやラテン、クラシック等を掛け合わせたジャンルがフュージョンなので、ロックの要素は確実にある。とはいえ、この時代のフュージョンは本当にただただフュージョンとしか言えないジャンルであったりもする。

この曲のカッコよさはとにかくウィンドシンセ。イントロ後のAメロのパリッとした音色とキレがたまらない。そして、普通の管楽器とはまた違うハリのある音色と、管楽器がベースになっているので鍵盤っぽくないフレーズなので、オリジナリティが半端じゃない。サビに当たる部分が終って、イントロのフレーズに戻るのだが、そこの裏で下りのグリッサンドをキメている部分がこれまたカッコイイ。 

全然ロックじゃない!と思うのなら、是非とも21cバージョンを聴いてみていただきたい。

シンセ感が薄まって、ソリッドな硬めの音色のギターが前に出ているこのバージョンがよいだろう。他にも多々バージョンがあるが、いずれにしても演奏さえ上手ければ大体何とかなってしまうのだから、この曲のクオリティの高さと根本的な価値に気付いてからが本番。ご本人の映像やカヴァーも含めてYoutubeを見漁ってみてください。その後、オリジナルに戻って、ジャズらしいスリリングさとポップで聴きやすいイントロやメインメロディーや、自分にフォーカスが当たっていない時にやり過ぎないバランス感だったりと、色んな良さに気付くことができるはずです。

春畑 道哉/JAGUAR

TUBEのギタリストとして有名な春畑 道哉。老舗ギターメーカー、フェンダーの日本初のエンドーサーであったり、TUBEの作曲をしていたりと、日本のミュージシャンとしては一流のギタリスト部類の人であったりする。

そんな彼のオススメ作品は、「JAGUAR」である。この曲をどこかで聴いたことがある方もいるだろう。フジテレビ系のプロ野球中継のテーマ曲であったり、プロレスラーの金本浩二の入場テーマだったりするので、特にプロ野球中継のイメージがあるかもしれない。この楽曲自体、1998年の「Jaguar」から、2008年にリアレンジされた「JAGUAR'08」、2013年にさらにリアレンジされた「Jaguar '13」と複数バージョンが存在する。いずれも、春畑のイントロのリフのカッコよさと、ユニゾンでアップダウンするキメは変わらない。イントロのリフ自体はブリッジミュートとオープンに鳴らすというハードロックでは定番の形を使って、ハードなリフに仕上げている。それとともに、ユニゾンで細かく上がっていくキメの後にギターソロとなる。ギターソロ自体も伸びやかで気持ち良い。

実はこの曲は、ずっとアップテンポにハードに攻めまくる曲ではない。中間部に一部落ち着く部分があり、この緩急を楽しむのがよい。音色も落ち着いて、スムーズなメロディを奏でる。これが夏の夕暮れのビーチの波打ち際のような静けさだ。そこからまたもとに戻り、海岸線をJAGUARで走り抜ける。そんなイメージがわいてくる。

特にこの雰囲気が出ているのが「JAGUAR'08」なので、個人的に一番のオススメは、「JAGUAR'08」である。

Michael Schenker Group/Into The Arena

この「Into The Arena」は80年代のハードロックのインストを挙げようとすると、10本の指には入るし、オールタイムでも100選には入ってくるくらいの曲である。実際、YOUNG GUITAR誌の『ギター・インストの殿堂100』に入っていたりもする。

ヤング・ギター厳選『ギター・インストの殿堂100』名演ランキング – ヤング・ギター YOUNG GUITAR

この曲を聴くときのポイントは、3連のリズムとギターを口ずさんでみるということ。これができると、この曲の凄さが身に染みて、良さが分かると思う。

まず、3連のリズムだが、この曲は3連符の最初と最後を基本としたシャッフルとみせかけて、完全に3連符を刻む。ただ、12/8拍子のようなブルージーさはなく、メタルにも通じるカッチリとしたリズムがインストだと案外少ない。もっとゴリゴリのメタルなら分かるのだが、そこをゴリゴリにならず、ロックのバックビートはありながら、リフは頭にアクセントを置くダウンビートがあるおかげで、どこでもノれるようになっている。3連符を刻み続ける先進性と、そのリズムが気持ちよくできているのが凄いのだ。

2つ目はギターのフレーズを口ずさんでみると分かるのだが、この曲のギターはほぼ口ずさめるフレーズでできているのだ。この曲に限ったことではなく、Michael Schenkerの曲全般に言えることで、リフは口ずさめるし、なんならギターソロも口ずさめる。Michael Schenkerはギターソロで速弾きもするのだが、口ずさめなくなるほどのテクニックを見せ続けることはなくて、瞬間的なものが多い。この曲でも6連符はそんなにたくさんなくて、全体的に口ずさみやすい。そこで、気付いてほしいのは口ずさめるフレーズでできている音楽がこんなにカッコいいのは、スゴイということ。

他にもChris Glenのベースソロと、曲者ドラマーSimon Phillipsのところどころに見せるアクセントであったり、曲が展開していき、最終的に泣きのギターになるのがこれまた聴きどころだけど、それは何回も聴いてから楽しみを広げていけば良いと思う。 

Mr. Scary/Dokken

この曲の聴きどころは、George Lynchの”カミソリギター”と呼ばれるザクザクでエッジーなギターサウンドと、♭5thを利用した危うい緊張感がずっと続くこんな曲は唯一無二だということ。

Dokkenというバンドは、ヴォーカルのDon Dokkenが主宰しているバンドで、結果的にDon以外のメンバーは入れ替わっている。その中でも80年代の全盛期に在籍した、 George Lynchのギターは偉大だったなと思うのです。哀愁を含むマイナー(短調)の曲と、Donのハイトーンと、Georgeのテクニカルなギター。普通に聴いているだけでなかなかカッコよいと分かる、分かりやすさがあるのです。

この曲はGeorge Lynchの”カミソリギター”がイントロから炸裂します。ドンシャリにしてもシャリ感強めのヘヴィなギターサウンドが聴こえてくるはずです。これが案外ありそうでない音。というのも、時代的にラインでの録音はされていなくて、アンプにマイクを立てて録音されていて、原音に忠実ではないにしろ、ヌケは良いが一般的な太い良い音とは言えない。しかし、ギター単体で必ずしも良い音とは言えなくても、バンドで音を重ねるといい感じになることはある(ぺこぱ、松陰寺 太勇風)ので、そんなに悪いことではないし、何なら独特の音色があるので、これはギターサウンドのオリジナリティなのだ。

サウンドもさることながら、ギターの音使いをよく聴いていただきたい。とにかく危うい感じて欲しい。そして、そこがキモなのだ。これにはちゃんと音楽理論的な理由もあって、♭5th(減5度)を使っていて、これがダイアトニックスケールという、全・全・半・全・全・全・半という自然な並びの音階から外れるということ。ダイアトニックスケールの中だととてもきれいで、例えば「Canon Rock」として一時期流行ったパッヘルベルの「カノン」の様に良くも悪くも整った感じになってしまうのです。服装で言うと、スーツでカッチリキメた感じになって、TPOによっては良いのだが、それってロックというよりもクラシックなのでは?という音階になってしまうのです。そこで、ハズしのテクニックが必要になってくるのです。ドレッシーなジャケットにワークを元としたデニムを合わせることで、カジュアルダウンするように、George Lynchはギターのラインを♭5thにズラして、緊張感を演出するのです。これを多用すると、ただ気持ち悪い音楽になってしまう可能性も大いにあるのですが、全然そうならない。上手く緊張と緩和を組み合わせた音楽になっていて、これをインストに仕上げているのが凄いので是非とも聴いていただきたい。

この曲が収録された『Back for the Attack』というアルバムの後、Dokkenは解散の道へ進むのです。それが、Donとそれ以外のメンバーとの確執が深まったことが原因だと言われていて、そんな溝ができた曲がこの曲なんじゃないか?なんて考えると、また違う危うさを勝手に感じるわけです。

March of the God/the pillows

淡々と流れていくマーチの中の神々の遊びが聴きどころ。

the pillowsはもう少し世間に認知されると、きっともっと人気が出るなと思うバンドの一つだ。 既に名曲はたくさんあるし、基本は歌モノのバンドなので、もっと他の良い歌を聴いてもらいたいのだが、今回はこのインスト「March of the God」について。

全体的にはそんなにテクニカルなことはやっていなくて、スケール的にもハズしはない。ところが何回聴いても楽しくなるような仕掛けがある。まず、イントロのスネアに合わせて、2本のギターが左右別々に鳴りだす。これぞステレオと言った基本的な演出ではあるのだが、これに気付くだけで右か左かで楽しめる。ライブの映像を見る限り、左がヴォーカル&ギターの山中さわおで、右がギターの真鍋吉明が割り当てられている。つまり、イントロの後のギターソロは真鍋のもので、山中はバッキングを弾いている。その後の展開で、山中が低めの音でリードを取るのが分かるはずだ。ギターが複数いて、どのチャンネルに誰が割り当たっているかが分かるだけでも、案外楽しめるのは自分だけだろうか?

ニクいアレンジとしては、1:31~に全体的にハイファイにしつつ、モジュレーションがかかった部分だ。同じことを演奏していも、サウンド全体が分かりやすく変わることで、単調な繰り返しにしないようにしている。こういう仕掛けをできるのは最近の音楽の良いところで、試しながら丁度良いエフェクトもかけやすい。

実はこの曲の一番の聴きどころはベースだと思っていて、それが現れるのがイントロと同じフレーズが出てくる1:45頃。左右のギターとスネアが刻みを始める後ろで、ベースがグリッサンドを決める。ドゥーンという音と共にギターとスネアの音だけになって重さが無くなる。そのヌケ感たるや、半端じゃない。その後も所々で音を鳴らしては、止めているのでベースが音全体を支えている感じが分かる。そして、次のコーラスに入る直前のベースのフィルがまたカッコよい。こういう細かい芸ができる鈴木淳はスゴイベーシストである。

細かい話をすると、”Yes, more light!”という掛け声みたいなものが入っているので、完全なるインストではないのだけど、歌モノというには、割合が低いのでインストとして扱うことにしている。 

 

こちらからは、以上です。

こんな記事も書いています