Jailbreak

新しい世界の切り取り方

Mr.Children『himawari』の感想とシングルやEPのもう一つの楽しみ方

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himawari (初回生産限定盤)(CD+DVD)

1.himawari
2.メインストリートに行こう (Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ)
3.PIANO MAN (Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ)
4.跳べ (Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ)
5.終わりなき旅 (2017.4.23 YOKOHAMA)
6.忙しい僕ら
7.I LOVE CD SHOPS!
8.Secret Track

 

Mr.Chidrenのシングル『himawari』は「himawari」自体の楽曲の良さよりも他の収録曲の方が価値があって、これは前作『ヒカリノアトリエ』同様だった。

先に言っておくと自分は初めて買ったCDがミスチルだし、自分にとってミスチルは未だに音楽の基本的な影響を受け続けているアーティストである。

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だからこそ1枚のシングル『himawari』として聴いて書きたいことがある。

himawariに一発名曲臭はしない

ミスチルの名曲達は一発でこれは名曲だ!と言えるほどのキャッチーさがあるのだが、「himawari」には一発名曲のキャッチーさは無かった。もちろん、名曲は一目惚れのように一気に好きになるものばかりではなくて、聴きこんでいくうちに徐々に自分の中で熟成されて名曲になることもあるし、何かエピソードと紐づくことである瞬間に名曲になることもある。少なくとも、「himawari」は一目惚れのようにすぐに分かりやすい名曲にはならなかった。

何だろう。何が一発名曲臭を無くしたんだろう。

元々楽曲の力が無かった可能性もある。シングルだからそれをメインに売り出せると踏まないと発表するとは考えにくい。前作『ヒカリノアトリエ』も同じく名曲臭こそしなかったが、ミスチルらしい優しい楽曲で上質なアルバムの1曲だったが、今回は違う。

ただ、以前の楽曲の様にサビにトニックを当てるコード進行にせず、サブドミナントから始まるコード進行(いわゆるⅣーⅤーⅥmだったり、ⅣーⅤーⅢmーⅥm)を使うことでハズしにかかっている感じはする。

2000年代以降よく増えた進行で、ロックのオルタナティブ化の流れとJ-POPの歌謡曲感脱却のためにヴァース・コーラス構成にしているのもあるとは思う。ミスチルのシングルを「himawari」の以前『四次元 Four Dimensions』までの10作で見てみても、「HANABI」、「足音 〜Be Strong」、「ヒカリノアトリエ」と3作がこのパターンに該当している。直近2作「足音 〜Be Strong」、「ヒカリノアトリエ」がこのパターンだというのも気になるが、「HANABI」が名曲として扱われているし、あまり関係がないかもしれない。「HANABI」に関していえば、ドラマの効果が大きいので、楽曲だけの力かというとそうでもないが。これは、コード進行や楽曲の造りが原因ではなさそうだ。

 

いつだってミスチルは最新の姿を見せてくれて、その時々で考えながら変化しながら新しい音を追及する。最近だと長年プロデューサーとして参加していた小林武史から脱却しており、本作も編曲のクレジットはMr.Childrenになっている。

そう、小林武史の存在感は確実に無くなっている。実際に「himawari」はキーボードレスで、バンドサウンド+ストリングスで構成されている。そのせいか、田原さんのギターがやけに聴こえたりJenのドラムがへヴィなサウンドに聴こえたのは、キーボードが埋めてた音が無くなって、各メンバーの音量が相対的に上がったからなのだ。これが新しいミスチルの音だ!とも言えるのだが、それが良くなかったのかもしれない。

実際、9thアルバム『Q』くらいからやけに小林武史がキーボードで参加する率が上がっているし、実際18thシングルの「口笛」以降の落ち着いた曲やバラードではほぼ小林武史のキーボード抜きでは成り立たない曲ばかりだ。「君が好き」、「HERO」、「Sign」、「しるし」、「旅立ちの唄」、「GIFT」とイントロからキーボードがいないといけない始まらない。アルバムの曲なんかは尚更だ。ギターで作られているというよりはピアノで作られた印象すら受けるくらい、ミスチルの楽曲になくてはならない存在であるのは確かだ。そして、その安定感がとてもある。いい意味で負荷分散ができ、ミスチルのメンバーだけよりは各楽曲への色付けがとても綺麗にできている。

そんな大事な小林武史の影響がないがために、楽曲の仕上りがイマイチな可能性は大いにある。プロデューサーとして小林武史が関わりバランスを取ることで、なんとかなっていた部分もあったのかもしれない。

 

それよりなにより一番の違和感は歌詞。特に1番のサビの歌詞がモヤっとする。

いつも

透き通るほど真っすぐに

明日に漕ぎだす君がいる

 Mr.Children「himawari」より引用

この「透き通るほど真っすぐに 明日に漕ぎだす」が意味不明なんすよ。 真っすぐに→漕ぎ出すは分かるのだが、「透き通るほど」が何なのかよくわかんない。真っすぐに漕ぐと透き通るのか?そんなことってあるのか。

いつだって、名曲のサビはメロディだけじゃなく歌詞だって分かりやすく、ほとんど解釈なんて必要なかった。例えば、「君が好き」なんてまんま君が好きと歌っているが、それこそ分かりやすい。そういうもんで、あえて言うなら「Everything(It's you)」のStayは何に対するStayなんだ?と思うくらいだろうか。ただ、StayはStayで意味はそのままだ。

なぜこういうことになるかもある程度想像できて、桜井さんの楽曲の作り方がまずメロディから作る曲先なのだ。つまり、歌詞は後からつけるので、メロディに合わせる必要があって、少々おかしな表現になることもある。やけに「その」とか「それ」、「そんな」という指示語が増えて表現として冗長に感じるのは、曲先が理由だと推測できる。

歌詞自体はポジティブなメッセージが含まれているし、全体として悪いわけではないだけに分けわからない部分を作ったり冗長な表現をするのは楽曲自体の評価を下げかねない。 

 

 「himawari」はどうもガツンとこない。可能性として主題歌になっている「君の膵臓を食べたい」と上手いことリンクして、経験と紐づくことで名曲になる可能性があるくらいだと思う。それはそれとして楽曲の楽しみ方で多面的な価値の創造だから大事にした方がいい。

その他の収録曲の価値がある 

前作「ヒカリノアトリエ」にも言えるのだが、 カップリングとして収録されている既存曲に価値があるのではないかと思う。

まずは、「メインストリートに行こう」、「PIANO MAN」、「跳べ」、「終わりなき旅」とSecret Trackになっている「ファスナー」の5曲のライブ音源。個人的にライブ音源は大好きで、ミスチルのライブ盤『1/42』はとてもオススメできる作品だ。

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2017年の最新のライブ音源というのもあって、最新のサポートメンバーに囲まれたサウンドがまだ耳に新しい。その中でも山本拓夫・icchieのホーン隊と小春のアコーディオンによる大人なポップサウンドが今のミスチルの狙うところなんだろう。

 

そのお陰もあって、収録曲の中でも一番の古株「メインストリートに行こう」が最新版にアップデートされたライブ音源になっている。正直、アコーディオン以外はほぼ原曲のアレンジを踏襲しているのだが、あまり崩しすぎないのも昔ながらのファンには嬉しい。そして、20代前半に発表した甘酸っぱい曲を40代も後半に差し掛かったミスチルが演奏するこのギャップ。何ならちょっと恥ずかしめなんじゃないかとも勘ぐってしまうが、それはそれとしよう。

 

「PIANO MAN」と「跳べ」に関してはそんなにコメントすることはなくて、「PIANO MAN」はバンド構成のお陰でほぼ原曲を再現しているくらいで、「跳べ」はライブ特有の桜井さんの煽りが聴けるくらいで、そういうライブらしいポイントがちょっとだけある。そういうライブの雰囲気をザックリ味わうのが良い。

 

「終わりなき旅」は過去のライブでも聴かせてきたイジリ方をしている。原曲とちょいちょい違っているところがあるのだが、全体的にアッサリ。多分、桜井さんと田原さんのギター2本体制だとそんなに厚みのある音じゃなくて、今までいた小林武史やりすぎキーボードもないからそう感じるのかもしれない。その恩恵としてギターが振り切ってパンニングしてあるので、右チャンネルが桜井さんのギター、左チャンネルが田原さんのギターだとしっかり分かる。ギターが複数本あることは割と普通で、普段のレコーディングではなかなか分かりづらいところなのだが、こうやって明確になるのはちょっとマニアックに聴く方法の一つなのかと思う。それ以外にも、途中で意図的に歌詞を変えている(過去のライブDVDで同じことをしている)個所と1発目の転調後の歌詞を間違っているがこれが意図的かどうかは分からないが、この辺もライブバージョンの楽しみでもある。終わり方がかなりアッサリしていると感じるは『1/42』の鬼の様に長いラストを現場で体験しているというのが原因だろう。

 

「ファスナー」 では『Split The Difference』以来2回目のスガシカオとのコラボ音源となっている。とはいえ、『Split The Difference』のコンセプトが今までの楽曲をリアレンジして聴いてもらうことを目的にしていて、何人かのアーティストとコラボレーションしている。比較対象は対原曲か対『Split The Difference』になるのだが、既にスガシカオとこの楽曲を共演しているので、どう考えても後者の比較になる。となると、案外楽しめない。『Split The Difference』は映像まであったのに、今回はない。なので、今回の「ファスナー」は『Split The Difference』を見たり聴いたりしていない方が、原曲との比較をするのをオススメすることになる。

 

それ以外で気になったことはJenのスネアの音がずっとカンカン鳴っていること。まず、前提としてJenはライブの中で楽曲に合わせてスネアを変える。そのため、裏には何台もスネアが用意してあるのだ。しかし、今回のライブ音源はほぼ同じスネアの音がしている。このカンカン鳴るのはリムショットをしていて、胴鳴りするようにチューニングにする必要がある。もしかしたら、こういう音がJenの中で流行っているのかもしれない。実際、スネアの音の好みなんてその時々で変わるのは理解できるので、アマチュアドラマーの自分としては納得がいく。それか、たまたま同じスネアを使っている曲ばかり選曲されたのかもしれない。いや、きっとそうだろう。

 

「忙しい僕ら」については、珍しく外部のアーティスト世武裕子によりアレンジがされている。全体的にはオーケストラアレンジがされていて、後半に進むにつれてバンド感が出てくる。これがわざとなのかもしれないが、どうもダイナミックさに欠ける。例えば「花の匂い」のようにもっと壮大にするでもなく、桜井さんの歌がぽつりぽつりと水面に落ちる水滴になっていて、そこから生まれた波立った水面がアレンジされた他の音であるからなのかな。この楽曲も一発名曲感はないので、これ以上語ることはない。

最後に

こんな風に新しい曲は新しい曲の楽しみ方があり、既存曲には既存曲の楽しみ方がある。特に今回の様にライブ音源をよく聴くと色んな発見があったりするので、シングルやEPの特典としてどんどん収録してほしい。海外のアーティストだって日本版にはボーナストラックがあったり、来日するからといってライブ音源を収録した2枚組デラックス版を発売するくらいなので、日本のアーティストも負けずに一つのシングルやEPやアルバムといったパッケージの価値を多用にする努力を怠らないで欲しい。もちろん、収録される楽曲が良いのは当然として。

 

こちらからは以上です。

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